NHK連続テレビ小説「わろてんか」より。
藤吉・てん夫婦が初めて手に入れることになる寄席「鶴亀亭」の買い取り金額・500円について、当時の物価、現在の物価を参考にどれくらいの金額かまとめてみます。
「鶴亀亭」500円で買い取ることに
元席主・亀井(内場勝則)と心が通じ、ようやく寄席「鶴亀亭」を買い取る見通しがついた藤吉(松坂桃李)たちでしたが、この寄席を寺ギン(兵動大樹)が借金のかたに差し押さえようとしていたから大変。
藤吉たちは寺ギンから寄席を買い取るために、すぐに「500円」という大金を用意しなければならなくなったのです。
吉本夫妻も「500円」で寄席を手に入れた
ヒロイン夫妻のモデルとなっている吉本吉兵衛、せい夫妻は寄席経営のスタートとして、明治45年(1912年)に大阪・天満天神裏の寄席「第二文藝館」の経営権を取得しています。
「吉本せい お笑い帝国を築いた女」(青山誠著・中経文庫)によれば、吉本せいはこの時、寄席の経営権を譲渡してもらうために300円、当面の運転資金をあわせて合計500円を用意しています(せいは方々から借金をして200円を集め、父・林豊次郎からも300円を出してもらった)。
明治45年当時の物価 コーヒー5銭 ホテル一泊13円
▼この記事で参考にした書籍はこちら。数字だけでなく、当時の社会事情や経済状況などを説明する文章、コラムも多く、理解が進みます。
では、明治45年当時の500円はどれほどの価値があったのか。当時の物価をざっと見てみます。多少時期に前後がありますが、この時期は物価の変動も少なかったため、誤差の範囲と考えてよいでしょう。
「物価の文化史事典―明治・大正・昭和・平成」(森永卓郎著・展望社)より一部抜粋。
・うどん、そば(1杯)…3銭
・喫茶店のコーヒー(都内平均・1杯)…5銭 ※明治40年
・百貨店「三越食堂」和定食…60銭 ※大正2年
・駅弁(普通弁当)…10銭
・森永ミルクキャラメル(1箱)…10銭 ※明治41年・米の小売価格(10kg・東京)…1円70銭1厘
・みかん(100貫=375kg)…15円2銭 ※明治43年・箱根富士屋ホテル(一泊二食付き・大人一人)…13円 ※明治44年
・国家公務員初任給(月給・高等管制時代)…55円 ※明治44年
・小学校教員初任給(月給)…10~13円 ※明治44年
・大工の旋盤工日当…2円27銭 ※大正2年
・綿紡女工日当…1円6銭 ※大正2年
これを見ると寄席の買い取り額「500円」は、いかにも羽振りが良さそうな当時の国家公務員の給料(初任給)の「9ヶ月分」。まあ、それなりの額ですね。
消費者物価指数 現在は2800倍に
さすがに明治時代だとそもそもの物の価値、外食の希少価値が現在と違ってくるため、もう少しわかりやすく「消費者物価指数」を頼りに、現在と当時の貨幣価値、物価の違いを見てみます。
明治33年(1900年)を1.00とした消費者物価指数では、明治45年が1.35だったのに対し、(少し古いですが)2003年は3844.4。ここから計算すると、現代(※2003年〜2017年までほぼ横ばいで推移)の物価は明治45年の約2800倍ほどになっています。
500円=140万円くらいか
つまり、明治45年に買い取った「500円」の寄席は、現在でいう「140万円~150万円」といったところ。
夫婦でちょっと頑張れば払えそうな額にも見えますが、家業が廃業となりお金に困っていた夫婦二人にしてみれば、それなりの大金と言えそうではあります。
追記:「わろてんか」11月10日の放送では小野アナウンサーによる「語り」により、当時の500円=現在の500万円という説明がなされました。吉本せいの人生を綴った本「吉本せい お笑い帝国を築いた女」(中経文庫)では500円=140万円前後と言及されているなど、このあたりは見解が分かれそうではあります。
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