NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」に登場する出版社「甲東出版」。ヒロインにとって二つ目の就職先となる甲東出版ですが、史実のモデル・大橋鎭子も二つ目の就職先で本格的に出版業に出会っています。
この記事では、「甲東出版」のモデルと考えられる「日本読書新聞社」についてまとめます。
「日本読書新聞社」はどんな会社?
常子の史実のモデル人物である大橋鎭子(「暮しの手帖」創業者)は、最初の就職先である「日本興業銀行(興銀)」を退職後、日本女子大学への入学を経て(体調不良で半年で退学)、求人広告で見つけた出版社「日本読書新聞社」に入社しています。
この「日本読書新聞社」はもともと書評新聞を発行していた出版社で、戦時中には、内閣情報局のもと出版物を統制、検閲する「日本出版文化協会」の機関誌のような存在となっていました。
各出版社は、本を出版する際にまず「日本出版文化協会」に原稿を提出し、その内容の評価(意向)によって発行部数が決められ、紙が割り当てられました。
「日本出版文化協会」に移る
鎭子は「日本読書新聞社」に入社後、この「日本出版文化協会」の秘書室に出向していました。
もともとは平和主義、リベラルな思想を持つ出版人が中心だったという「日本出版文化協会」も、戦争の激化とともに陣容が変わり、好戦的な出版物を重視するようになっていきます。鎭子は昭和18年に「日本出版文化協会」が「日本出版会」となって組織改編を行なうと、「日本読書新聞社」に戻っています。
鎭子は戦後にかけて「日本読書新聞社」で原稿の書き方、原稿依頼、校正、入稿、発送など、出版社の仕事の基本を学ぶことになります。
「甲東出版」は検閲される側
一方、ドラマに登場する「甲東出版」は文芸誌を扱い、自由な気風を有します。やがて戦争の本格化とともに同社の「明るい内容」の出版物が不謹慎だとして社長・谷が当局に検挙されてしまい、次第に戦争を礼賛する読み物しか扱えない状況になっていきます。
史実の「日本読書新聞社」は鎭子入社の頃にはすでに軍部寄りの立場だったともされ、自由な気風で権力とは距離があるドラマの「甲東出版」の設定とは少々異なります。このあたりは、ストーリー構成の都合上、設定を改変しているものと考えられます。
花森安治との出会いが財産に
常子は「甲東出版」勤務時代に、生涯の仕事のパートナーとなる花山伊佐次(唐沢寿明)と出会うことになります。大橋鎭子も「日本読書新聞社」での勤務を通じて花山のモデル人物・花森安治と出会っています。
戦後、鎭子は勤め人のお給金では一家を養っていけないと悟り、自ら出版業を立ち上げる決意をします。その際に、日本読書新聞社での業務経験、そして花森安治との出会いが大きな財産となるのですが、ドラマでもこうした大筋の流れは踏襲していきそうです。