NHK連続テレビ小説「マッサン」で登場する「太陽ワイン」。鴨居欣次郎(堤真一)が経営する「鴨居商店」(寿屋洋酒店、後のサントリーがモデル)が大ヒットさせたという、フィクションの「甘味葡萄酒」です。
この「太陽ワイン」は実在する果実酒がモデルとなっています。
モデルは「赤玉ポートワイン」
「太陽ワイン」には、モデルとなる果実酒「赤玉ポートワイン」が存在します。
これはサントリーの前身・寿屋洋酒店が明治40年(1907年)に発売したもので、現在でもサントリーから「赤玉スイートワイン」として販売され、根強い人気を誇っています。
日本人の味覚に合う葡萄酒 「ポートワイン」風
明治末期、寿屋の創業者・鳥井信治郎は兼ねてから販売していた葡萄酒(スペインからの輸入品)が周囲で不評だったため、葡萄酒に馴染みのない日本人の味覚に合う葡萄酒づくりを進めていました。
鳥井は、ポルトガルでつくられている「ポートワイン」(=酒精強化ワイン。まだ糖分が残る発酵途中の葡萄酒にブランデーを加え、酵母の働きを止める。これにより甘味が生まれ、アルコール度数が高いため保存性にも優れる)に似た「甘味果実酒」を開発し、これに「赤玉ポートワイン」と名付けて売り出しました。
「赤玉ポートワイン」は、当時としては贅沢品とも言える値段設定(1本38銭ほど)だったにも関わらず、鳥井お得意の広報戦略もあり大ヒット。寿屋、現在のサントリーの繁栄の土台を作った歴史的な商品となります。
現在のように様々なワインが普及、一般化したのは戦後のことで、戦前の日本人にとってワインと言えば、甘い「赤玉ポートワイン」を連想する人が多かったようです。
甘い「赤玉スイートワイン」は現在も人気商品
ちなみに「ポートワイン」という名前はあくまでイメージとして名前を拝借しただけであり、「赤玉ポートワイン」の製法は本場ポルトガルの「ポートワイン」とは異なるもの。
1970年代に「ポートワイン」の商標管理が国際的に厳しくなったために「赤玉ポートワイン」は「赤玉スイートワイン」と改称し、現在に至っています。
「赤玉スイートワイン」は現在でもワインとは思えない飲みやすい甘さ、550mlで553円とすっかり安くなった価格、そして高いアルコール度数による酔いやすさもあり、同社の人気商品となっています。
鳥井信治郎とマッサンとの関係 爆発する甘味葡萄酒
▼「幻のサントリー社史」と言われる名著。山口瞳、開高健はともに同社宣伝部に在籍した。
摂津酒造に勤めていた竹鶴政孝(マッサンのモデル)は、寿屋から受注した「赤玉ポートワイン」の製造を担当していました。
当時、各地で甘味葡萄酒が爆発する騒ぎが起きていましたが(殺菌が不十分だったため酵母が発酵してしまった)、摂津酒造による「赤玉ポートワイン」だけは一本も割れず、鳥井は竹鶴の仕事ぶりを高く評価していました。
こうした竹鶴の仕事ぶりが、後年、鳥井がウイスキーづくりを志す際に竹鶴を右腕として指名する要因になります。
鳥井信治郎は天性の商人気質。対する竹鶴はモノづくりを追求する職人肌であり、二人は互いにぶつかりながら、日本初のウイスキー製造という金字塔を打ち立てる事になります。
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