NHK連続テレビ小説「あんぱん」第3週より。
千尋の勧めで高知新報社の新人漫画大賞に応募した嵩は、見事に入賞して10円の賞金を獲得することになります。当時の10円がどれほどの価値を持つのか、当時の物価などを参考にまとめてみます。
このエピソードはやなせたかしが中学時代に地方新聞に漫画を投稿して一等をとったという史実がもとになっているようです。
【あんぱん】嵩、漫画「三段跳」で新人漫画大賞に入選

1935年(昭和10年)。中学校の最終学年である5年生になっていた柳井嵩(北村匠海)は、弟の千尋(中沢元紀)からの勧めもあり高知新報社の新人漫画大賞に応募してみます。
入賞が一人、準入賞が一人という狭き門にも関わらず、嵩は見事に最高評価の入賞を獲得。この成功体験が嵩の人生を大きく変えていくことになりそうです。
嵩が新人漫画大賞に応募した作品のタイトルは「三段跳」。新聞に掲載された審査委員の講評は以下のとおりです。
【講評】
「身近な人を題材にしているのか、親近感がわく作品。同時に独創的な世界観を持っている。着眼点と表現力は評価に値する。加えて落ちも秀逸であった。画力に難はあるが、人間の動きを的確に捉えているため躍動感はある」
※ドラマに登場する「高知新報社」は、のぶと嵩のモデルである小松暢とやなせたかしが働いていた「高知新聞社」がモデルになっていると思われます。
大阪出身の小松暢は地元の女学校を卒業後に東京で最初の夫・小松総一郎と出会って結婚。総一郎と死別した戦後に父の故郷だった高知の「高知新聞社」に入社し、そこで後から編集部に入ってきたやなせたかしと出会っています。
※やなせたかしが戦前に描いた絵はほとんど残っていないそうで、今回のドラマ化にあたり複数の漫画家や美術大学生に「嵩の絵」を描いてもらっているそうです。NHK公式のドラマのガイドブックによれば、嵩が劇中で描く4コマ漫画に関してはやなせスタジオに所属する漫画家・山根青鬼さんに依頼しているとのこと。
【史実】中学時代のやなせたかしの受賞の実話がもと
朝ドラ「あんぱん」で柳井嵩が新聞社に漫画投稿をして入選し、賞金10円を獲得するというエピソードは史実がもとになっています。その経緯がやなせたかしの詩「ただ一度の小づかい」(「やなせたかし全詩集」などに収録)に綴られています。
中学3年生の頃、学業や柔道が極めて優秀だった弟・千尋へのコンプレックスをこじらせたやなせたかしは、得意だった漫画で勝負をしようと思い立ち地方新聞に漫画を投稿しています。※作品タイトルは不明。
結果は見事に一等を受賞。懸賞金10円をもらったやなせたかしは、そのうちの3円を小遣いとして千尋にあげたのだとか。
千尋は兄からの思いもよらぬ小遣いに大喜びだったそうですが、結局千尋に小遣いをあげたのは後にも先にもこの一度きり。
やなせたかしは後に「ああ、ぼくはもっと弟にやりたかった」「もっと弟を喜ばせたかった 兄貴の貫禄見せたかった せめてあのとき五円やればよかった」と後悔したようです。

入賞賞金10円 現在の物価で5万円くらいか
嵩はこの入賞で10円という賞金を手にしています。ドラマの時代設定である1935年(昭和10年)当時に10円がどれくらいの価値があったのか、ざっと考えてみます。

「物価の文化史事典」(監修・森永卓郎)によれば、1935年当時の公立小学校教員(東京)の初任給は45円〜55円ほど。
また、東京で働いていた石工(日雇い)の日給が2円87銭(25日働いて約72円)、左官(日雇い)の日給が2円16銭(25日働いて約54円)。
嵩が得た賞金「10円」は、当時の公立小学校教員の初任給(45円〜55円)の4分の1から5分の1程度ということになります。
現在の公立小学校教員の初任給が20万円ちょっとであることを考えると、嵩がもらった漫画の賞金「10円」は現在の5万円前後の価値といったところでしょうか。
賞金10円を得たからといっていきなり嵩がお金持ちになるという話ではなさそうですが、何者でもない学生だった嵩にとって、初めて自分の絵でお金を稼いだという事実は大きな自信になっていくことでしょう。
また、嵩がこのお金をどのように使うのかも気になりますよね。
前述したように、史実では弟の千尋に3円のお小遣いをあげています。
嵩がこの10円を使い、さらなる絵の習熟のために画材道具などに投資するのか、それとも想い人であるのぶ(今田美桜)や弟の千尋に何かしらのプレゼントをするのか…。嵩の人間性が垣間見られるシーンになりそうです。
【放送後追記】賞金10円をもらったことを知った草吉は夢ヶ浜に嵩を呼び出し、朝田三兄弟たちにかき氷とラムネを奢らせています。嵩は残ったお金の中から千尋に3円の小遣いをあげ、兄としての威厳を見せています。