「虎に翼」法廷劇・毒饅頭殺人事件 モデルは神戸のチフス饅頭事件

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NHK連続テレビ小説「虎に翼」で寅子たち明律大学女子部の面々が取り組む法廷劇「毒饅頭殺人事件」。

この毒まんじゅう事件は、昭和前期に世間を騒がせた「チフス饅頭事件」がモチーフになっていると考えられます。

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目次

【虎に翼・法廷劇】憎しみの果ての犯行「毒饅頭殺人事件」

1933年(昭和8年)の秋。明律大学女子部の二年生になっていた寅子(伊藤沙莉)たちは、「明律祭」で法廷劇を行うことになります。新入生が減少している女子部は存続の危機にあり、寅子たちはこの法廷劇が女子部存続のための宣伝になると意気込みます。

法廷劇の内容は、学長の提案により実在の判例「毒饅頭殺人事件」をモチーフにしたストーリーに決定。文学の素養がある桜川涼子(桜井ユキ)が、学長が用意した判例を元に脚本を書き上げます。

法廷劇「毒饅頭殺人事件」のあらすじは以下の通り。

カフェーの女給・甲子(こうこ)は、7歳年下の医学生だった乙蔵(おつぞう)と恋に落ち、交際をしていました。甲子は彼が医者になるための資金援助を長らく続け結婚の約束も交わしていましたが、いざ乙蔵が医者になると「もう来ないでくれ」「君とは結婚できない」と冷酷に捨てられてしまいます。

乙蔵に激しい恨みを持った甲子は、防虫剤入りの毒饅頭を作るとこれを彼の家に送り、乙蔵一家の殺害を試みます。その結果、饅頭を食べた乙蔵の祖父が亡くなり、甲子は殺人と殺人未遂の罪で懲役八年の判決が言い渡されて…。

男の身勝手が発端となり、男に傷つけられた無力な女が罪を犯してしまう「毒饅頭殺人事件」。

辛い仕打ちにあった甲子にどこまで情状酌量の余地があるのか、甲子は乙蔵に対し損害賠償を請求できるのか…。このあたりが女子部が作る法廷劇としての視点、争点になりそうです。

【法廷劇の補足・一部ネタバレ注意】

実は涼子に事前に渡されていた判例は、甲子に同情が集まるようにと学長が内容を改ざんしたものだったことが後に判明します。

実際には、甲子は毒饅頭殺人事件を起こす前に、乙蔵に対し婚姻予約不履行の民事訴訟を起こして勝訴。甲子は賠償金七千円を受け取っていました。また、甲子の職業は女給ではなく医師で、まんじゅうに入れられた毒は防虫剤ではなくチフス菌でした。

つまり、甲子は民事で一応は解決したはずの男女関係に対し事件を起こした上、医師としての知識を活かしてチフス菌という殺意を感じる毒物を使用していたわけです。

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【史実モデル】神戸・チフス饅頭事件 世の女性が注目した裁判の行方

▼戦前には今とは毛色が違う、闇深い事件が多く起きていました。チフス饅頭事件も取り上げられている「戦前昭和の猟奇事件」(文春新書)。

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女子部が演じる法廷劇「毒饅頭殺人事件」は、1939年(昭和14年)に兵庫県神戸市で発生した「チフス饅頭事件」がモチーフになっていると思われます。※時系列的には「虎に翼」の法廷劇(=1933年)から6年後に発生しています。

事件を起こしたのは、内科医院に勤めていた29歳の女医・H

Hは一つ年下の医学生・Yと恋仲になると(内縁関係。結婚の約束あり)、彼が医師になるために5年間学費を援助し続けています。ところが、いざYが医師になると冷たい仕打ちの末にフラれ(Yに女の影あり)、Yの家族からも暴言を吐き捨てられた末に離縁をされてしまいます。

Yとその家族に激しい恨みを持ったHは、神戸の大丸百貨店で「かるかん饅頭」を購入すると、これにチフス菌を混入(Hは細菌研究所に出入りしていた)。Y宅に毒入りの饅頭を送りつけています。

これをYとYの弟、それにYの妹の職場の人たちが食べてしまうと、全員がチフスに罹患。Yの弟が死亡し、Yは一時重篤状態に陥っています。チフス菌の入手経路などからHが捜査線上に浮上するとHは犯行を認め、逮捕されています。

この事件は連日マスコミにより報道されるなど、世間で大きな注目を集めました。

特に加害者側であるHに同情を寄せる女性からの注目度は高く、Hの減刑嘆願を求める声も上がったそうです。この裁判の傍聴席は女性が8割を占めたともされ、いかに当時の女性がこの事件に関心を寄せていたのかがわかります。

女性と法をテーマにしている「虎に翼」にピッタリの題材ですね。

【史実モデル】同情論渦巻くも、判決は懲役8年で確定

この裁判の争点、補足点をいくつか挙げておきます。

・事件を起こす前にH(女)はY(男)に対する民事裁判で勝訴し、賠償金七千円を受け取っている。
・医師であるHは、チフス菌罹患の致死率の低さを認識。殺意はなかったと主張。
・Y側はHの心変わりが離縁の原因(Hは学費の返金も求めた)だとしたが、Hはこれを否定。
・世論(特に女性)はHに同情的。
・Hに同情の余地があるとして、神戸地方裁判所は無期懲役の求刑に対し、懲役3年を言い渡す。
・検察側はこれを不服とし即日控訴。

結局、大阪控訴院での控訴審判決は未必の故意(死の転機を生ずるかもしれぬことを予見)を認定し、殺人と殺人未遂により懲役8年の判決を言い渡しています(その後、上告が棄却され刑が確定)。世論や法廷ではHに対する同情論が盛り上がりましたが、最終的にはこうした感情を排除した形での客観的な判決が出されています。

その後、Hは模範囚として刑務所で過ごし、刑期は3分の1になり懲役2年8ヶ月で早期出所。Hは中国大陸(オーストラリアとも?)に渡り医療活動を行い、大戦末期に郷里である高知に帰郷。戦後に地元の市議会議員を一期務めると、相談所を設けて弱者の相談に親身に乗る活動も展開。医師免許の復活後には医師として晩年まで活動をしたそうです。

男女が法の下に平等ではなかった時代に起きた、弱き女性による悲しい復讐事件。寅子たちはこの法廷劇を通して、弱き女性や、愚かな間違いを犯してしまった人たちに対し弁護士は何が出来るのかを問うていきます。

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