NHK大河ドラマ「いだてん」に登場する東京・大塚の足袋屋「ハリマヤ(播磨屋)」は、実在した足袋屋「ハリマヤ足袋店(播磨屋)」がモデルになっています。
この記事では「ハリマヤ」と金栗四三との関わり、「ハリマヤ」があった場所などをまとめます。
東京・茗荷谷駅近くにあった「ハリマヤ足袋店」
「ハリマヤ足袋店」は、姫路から上京した黒坂辛作が1903年に大塚仲町(現在の文京区大塚)に小さな店を構えたのが始まりです。※「播磨屋」の屋号は辛作の出身地(旧播磨国)にちなみます。「いだてん」ではピエール瀧(不祥事により三宅弘城に交代)が黒坂辛作を演じます。
創業の地には「金栗足袋発祥之地」という小さな碑が掲げられており、日本初のオリンピック選手となったマラソンランナー・金栗四三とハリマヤとの関係を今に伝えます。
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▼東京メトロ・丸ノ内線の茗荷谷駅近く。春日通り沿いにあるお弁当屋さん「つるや大塚店」の場所が、ハリマヤ創業の地。通りから路地を入った建物の壁面に(自販機の奥、室外機に隠れるように)「金栗足袋発祥之地」の文字があります。すぐ近くにはかつての東京高等師範学校の敷地を受け継ぐ筑波大学・東京キャンパスがあります。
「東京高師」学生御用達の足袋屋
1910年に金栗四三が進学した東京高等師範学校(東京高師=現在の筑波大学の前身)では、体育教育に先進的な考えを持っていた校長・嘉納治五郎が中心となり、体力の向上を目的とした「長距離競争」を全校生徒に奨励していました。
東京高師の生徒たちは春と秋に行われる校内長距離競争の時期になると、学校のすぐ横にあった「ハリマヤ足袋店」に押し寄せ、足袋を買い求めました。
当時は現在のようなランニングシューズ、運動靴などがなかったために、学生たちが代用品としてハリマヤの足袋を買い求めたのです。
金栗四三とハリマヤの足袋
四三は校内の長距離競争で好成績を納めると、嘉納治五郎校長の主導により開催されたストックホルムオリンピック・マラソンの代表選考会に出場することになります。
四三はこの選考会にハリマヤの足袋を履いて出場すると、当時の世界新記録を27分も短縮する2時間32分という驚異的なタイムで優勝しています。
ただし、四三が履いていた足袋は走行中に底がはがれてボロボロになり、途中からは裸足で走ったとか。それもそのはずで、当時のハリマヤの足袋は運動向けに作られたものではなく、あくまで一般用途向け。25マイル(40km)を走り抜く強度など持ち合わせていなかったのです。
ストックホルム五輪もハリマヤ足袋で出場
選考会の結果を受けてストックホルム五輪代表に選出された四三は、履き心地が良く耐久性にも優れた足袋を何とか作れないかとハリマヤ店主の黒坂辛作に頼み込みます。
ハリマヤにとっては儲け度外視となる四三の頼みでしたが、辛作はこれを引き受けると改良に熱中し、厚布を底と踵にしつらえた特製の足袋を仕立て上げます。
辛作苦心の作である足袋を履き初のオリンピックに挑んだ四三でしたが、ストックホルムの硬い石畳の衝撃をハリマヤの足袋は吸収できず、膝にダメージが蓄積。加えてレース当日は35度を超える猛暑となったこともあり、四三は日射病により失神してしまい、途中棄権をしてしまいます。
改良を重ねた「金栗足袋」の誕生
マラソンランナーとしてのレベルアップとともに、マラソン用足袋の改善も必要と痛感した四三はストックホルムから帰国すると、4年後のオリンピック出場を見据えて、辛作とともに足袋のさらなる改良に着手することになります。
辛作は四三のランナーとしての経験を、ハリマヤ製の足袋にフィードバックさせていきます。靴底を凸凹のゴムにし、足袋に付き物の「コハゼ(留め具)」をやめて紐にするなど足袋に大幅な改良を施していき、改良を重ねた足袋を「金栗足袋」と命名。
「金栗足袋」はハリマヤにより商標登録が行われ、一般にも販売されると大ヒット商品になっていきました。儲け度外視で始めたマラソン足袋の開発でしたが、結果的にハリマヤに大きな利益をもたらし、同社の主軸商品となりました。
▼TBSによってドラマ化された「陸王」も、長距離ランナーとマラソン足袋開発者との友情物語でした。
足袋からシューズへ 多くの名ランナーを支えた
やがて「金栗足袋」は「カナグリシューズ」(最初の国産マラソンシューズとも言われる)へと進化し、ボストンマラソンで世界新記録を叩き出した山田敬蔵など、数々の名ランナーが愛用し続けました。
高度経済成長期以降、大手スポーツメーカーによるスポーツシューズが次々と発売されていきましたが、ハリマヤのシューズは陸上競技専用として根強い支持を得ていました。
残念ながらハリマヤは、バブル期に不動産など多角経営に乗り出したことでバブル崩壊のアオリを受け、ハリマヤのシューズ製造部門も終焉を迎えています。
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