テレビ朝日系ドラマ「ハヤブサ消防団」に登場する山間の集落・八百万町(やおろずちょう)隼(ハヤブサ)地区。
主人公のミステリー作家・三馬太郎(中村倫也)は亡き父の生家がこの地区にあった縁によりハヤブサ地区に移住し、「ハヤブサ消防団(八百万町消防団隼分団第一部)」に所属することになります。
ドラマに登場する八百万町・ハヤブサ地区、それにハヤブサ消防団にはモデルはあるのか、まとめてみます。
岐阜県中部にある架空の町・八百万町(岐阜県加蔵郡)
5年前に明智小五郎を受賞し、横溝正史の再来とうたわれたミステリー作家の三馬太郎(中村倫也)。
その後長期に渡るスランプに陥っていた太郎は、亡き父・勝夫が遺した生家があった縁で岐阜県山間部の八百万町隼地区(通称:ハヤブサ)を訪ねると、すっかり現地の自然に魅了され、心機一転を兼ねてこの地に移住することを決意します。
太郎が担当編集者の中山田(山本耕史)に八百万町への移住を報告した際、中山田はパソコンで「Wikinote」の八百万町のページを調べています。「Wikinote」では、八百万町は以下のように説明されています。
【八百万町のWikinote】
八百万は岐阜県加蔵郡にある町である。
地理:
岐阜県中部地方に位置し、八百万地区、隼地区、熊田地区、鹿野地区、猪谷地区、魹(とど)沢地区の6つの地区からなる。面積の8割が山林である。南側を木曽川本流に、北側を飛騨川に挟まれている。農地が広がっているが、過疎化が進んで人口が減少傾向にある。
面積:292km2
人口:1.1万人
※第8話によれば、ハヤブサ地区の人口は1,000人ほどとのこと。
原作小説「ハヤブサ消防団」の著者・池井戸潤氏によれば、太郎が移り住んだハヤブサ地区は標高500メートルの山間にあるという設定。
太郎が住む家はハヤブサ地区の「紫野(むらさきの)」という字(あざ)でしたので、住所で表記すると「岐阜県 加蔵郡 八百万町 隼 字紫野」(紫野は大字の可能性も)となるかと思います。※原作では「U県S郡八百万町」として登場しています。
八百万町には6つの地区それぞれに消防団があります。公共の消防署(常備消防)もありますが、一番近い消防署でもハヤブサ地区から30キロは離れており、地元の有志による消防団の存在が不可欠になっています。
ハヤブサ地区の中心部には江西佑空(麿赤兒)が住職を務める名刹・隋明寺(ずいめいじ)があるほか、商店街には呉服店「一徳堂」などがあり、田園地帯の一角にはハヤブサ地区の人たちが集う「居酒屋サンカク」もあります。
八百万町の町長は村岡信蔵(金田明夫)という八百万地区の人物が務めています。村岡はある理由によりハヤブサ地区を毛嫌いしており、何かとハヤブサ消防団とぶつかっていきます。
【追記】第8話では、「アビゲイル騎士団」の生みの親である「聖母アビゲイル」こと山原展子がこのハヤブサで育ち、この地で円環構造という教義を導き出したことが明かされています。
モデルは池井戸潤氏の故郷・八百津町
原作小説「ハヤブサ消防団」の著者・池井戸潤氏はTBS系日曜劇場「半沢直樹シリーズ」や「下町ロケット」シリーズの原作を書いたことで知られる超売れっ子作家です。
池井戸潤氏は岐阜県加茂郡八百津町(やおつちょう)久田見の出身であり、この岐阜県中濃地域にある加茂郡八百津町が「加蔵郡八百万町」のモデル(物語のモチーフ)になっています。
※八百万町のシーンの撮影(ロケ地)は、群馬県富岡市、下仁田町などで行われているようです。また、ドラマの消防団監修・指導として富岡甘楽広域消防本部が、消防団協力として富岡市消防団がクレジットされています。
【八百津町の基本データ】※Wikipediaより抜粋
岐阜県中南部に位置し、面積の約8割が山林である。南側を木曽川本流に、北側を木曽川水系の飛騨川に挟まれている。海抜120m前後の河岸段丘に沿って住宅や農地が広がっているが、過疎化が進んで人口が減少傾向にある。
地名:伊岐津志、上飯田、上牧野、上吉田、久田見、潮見、錦織、野上、福地、南戸、八百津、和知
消防(常備消防):可茂消防事務組合中消防署・八百津出張所
消防団:八百津町消防団
面積:128.79km2
人口:9,696人(2023年)
※八百津町には12の地名(地区)がありますが、「ハヤブサ」という地名はありません。
※八百津町には市町村の消防職員の方々が仕事として携わるいわゆる「常備消防」として「可茂消防事務組合中消防署・八百津出張所」があり、それとは別に、普段は他の仕事に従事している地元の方々が活動する「八百津町消防団」が存在します。「ハヤブサ消防団(八百万町消防団隼分団第一部)」は後者の消防団をモチーフにしているようです。
もちろん、実際に八百津町でドラマのような奇怪な事件が起きたわけではありません(笑)。あくまで生まれ故郷にある消防団という組織の存在の面白さから着想を得て(後述)、池井戸氏が完全オリジナルのミステリー作品として創作したというわけです。
故郷の旧友たちの消防団活動を参考に執筆
小説「ハヤブサ消防団」の刊行に際し行われた消防庁長官・内藤尚志氏と池井戸氏の対談(集英社HP)では、「ハヤブサ消防団」の元ネタとなった地元の消防団の友人たちの話題が登場しています。
池井戸氏は物語と同様に八百津町の標高500メートルほどの地区で生まれ育ち、進学により故郷を離れたそうですが、地元に残った友人たちとは今も交流を続けているそうです。
こうした地元の友人たちはみんな消防団に入っているとのことで、池井戸氏は帰省のたびに消防団の活動の様子などを聞いていたとか。
以前から「田園地帯を舞台にした小説」が面白そうだと思っていたという池井戸氏。火事などの非常時だけではなく、日常のコミュニティの中に当たり前のように消防団の人たちが存在している地元社会のあり方に興味を惹かれたようです。
消防操法大会の出場や訓練のエピソード、行方不明になったお年寄りの捜索、日常的に行われる団員の飲み会やゴルフコンペなどなど、池井戸氏は八百津町の友人たちの消防団活動エピソードを詳細に聞き出した上で、「ハヤブサ消防団」を執筆したそうです。
「ハヤブサ消防団」では消防団活動の悲喜こもごもが面白おかしく描かれていますが、こうしたエピソードの半分ほどは、実際に地元の消防団で起こったことなのだとか。
実話を参考にしたリアリティある消防団の描写とともに、池井戸氏の類まれな想像力・執筆力が加わり、「ハヤブサ消防団」は良質なミステリーとして仕上がっています。
「アビゲイル騎士団」は劇中の架空の団体ですので(笑)、安心して八百津町を訪ねてみてくださいね。