NHK連続テレビ小説「マッサン」3月18日(水)放送分より。甥っ子・岡崎悟(泉澤祐希)との会話の中で、マッサン(玉山鉄二)はウイスキーづくりにおいて「一番大切なこと」を思い出します。それは、そもそものウイスキーの成り立ち、語源に由来するものでした。
この記事では、マッサンを初心に還らせた「ウイスキー」の語源ならびにウイスキーの成り立ちを簡単にまとめます。
アクア・ヴェテ=命の水
「ウイスキー」という名称は、ラテン語の「aqua vitae」(アクア・ヴェテ=命の水)に由来します。これは、中世の錬金術師たちがつくった「生命の水」から始まったと言われます。
「アクア・ヴェテ」は、もともとは葡萄酒を蒸溜したものでした。これが1300年代にヨーロッパ各地に広まると、やがて各地で手に入る果実、大麦、ライ麦などが原料となり、蒸留酒が製造されるようになっていきます。
人類と蒸溜技術、蒸留酒との出会い
そもそも、人類が「蒸溜」の技術を発見したのは紀元前800年前後と言われます。当初は海水から水を分離するために用いられたこの技術も、やがて酒づくりに応用されるようになっていきます。
蒸溜技術によって生まれた酒は「aqua vitae=生命の水」と呼ばれました。蒸溜によりアルコール度数が高まり、口の中で燃え上がるような酒の味わいを体験した人々は、これを神秘的な「不老長寿の薬」と考え、生命をつなぐ特別な液体だと考えたのです。
アクア・ヴェテ→ウシュク・ベーハーに転じる
ラテン語であった「アクア・ヴェテ」は、スコットランド、アイルランドに渡るとゲール語に訳され、「ウシュク・ベーハー=Uisge beatha」(ウシュク=水、ベーハー=命)と呼ばれます。この「ウシュク・ベーハー」が、ウシュクボー→ウスケボー→ウシク→ウスキーのように時代とともに変化し、こんにちのように「ウイスキー(whisky)」と呼ばれるようになったとされます。
※「ウイスキー」は、長い間蒸溜したての透明な状態で飲まれており、現在のように樽熟成により琥珀色の色を持つようになったのはごく最近、19世紀に入ってからのことだそうです。
「ウォッカ」も命の水
ちなみにヨーロッパ各地に散った「アクア・ヴェテ」ですが、各地で「ウォッカ」(ポーランド、ロシアなど。大麦、小麦、ライ麦、ジャガイモが原料)、「アクアヴィット」(スカンジナビア地方。ジャガイモが原料)などのように、それぞれの地域の「命の水」となり、医薬品から次第に嗜好飲料に転じ、人々に愛されるようになっていきます。
ウイスキー=命の水こそが、マッサンがつくるべき酒
マッサンはシベリア抑留で過酷な体験をした甥っ子の悟から、粗悪である三級ウイスキーがどれだけ自分を救ってくれたかという体験を聞かされます。
「本物」ばかりにこだわっていたマッサンは、悟の話を聞き、ウイスキーが持つ「命の水」という本来の意味を思い出します。
「人は水がないと生きていけん。水は命をつなぐもの。ウイスキーは人の命をつなぎ、心を豊かにするものじゃ…。」
「命の水」に本物もニセモノもない。今日本国民が本当に求めている安くてウマい酒こそが、自分がつくるべき「命の水」ではないか…。悟の言葉を受けて、マッサンは皆が喜んで飲める至高の三級ウイスキーづくりに着手します。