NHK連続テレビ小説「らんまん」第3週では、万太郎が東京・上野で開催される内国勧業博覧会に出席するために初上京。この会場で、万太郎は運命の人と出会うことになります。
この内国勧業博覧会のシーンが撮影されたロケ地や、モデルとなった牧野富太郎と内国勧業博覧会との関わりなどをまとめます。劇中では、実際に上野公園で開催された第2回内国勧業博覧会の雰囲気が再現されています。
峰屋が内国勧業博覧会に出品 当主の万太郎が上京
第3週では、青年に成長した万太郎(神木隆之介)が初上京する様子が描かれます。
東京・上野で開かれる内国勧業博覧会に峰屋の銘酒「峰乃月」が出品されることになったため、峰屋当主の万太郎は竹雄(志尊淳)を連れて初上京。万太郎は博覧会の懇親会場で各地の蔵元の代表たちと酒を酌み交わすうちに、慣れない酒で泥酔をしてしまいます。
すっかり上機嫌になった万太郎は「ゲコでゲコで、カエルじゃあ…!」と笑いながら会場を出ていくと、近くの広場にあったエノキに登って騒ぎ出します。
そこに偶然通りかかったのが、博覧会に出店をしていた菓子屋「白梅堂」の娘・西村寿恵子(浜辺美波)でした。万太郎は、「危ないです!降りてください!」と声をかけてきた美しい娘・寿恵子のことが忘れられなくなってしまい…。
ロケ地は牛久シャトー(茨城県牛久市)
事前の予告映像などから、内国勧業博覧会の会場のシーンは茨城県牛久市にあるワイン醸造所「牛久シャトー」で撮影が行われたようです。
▼ドラマではこの本館の正面に日の丸や菊の御紋などが設置され、政府主導のイベントだった内国勧業博覧会の雰囲気を再現しています。
牛久シャトーは、実業家の神谷傳兵衛が1903年(明治36年)に開設した日本初の本格的なワイン醸造場として知られます。※2017年までの名称はシャトーカミヤ。
当時最新だったボルドー地方の醸造技術を導入し、葡萄の栽培からワインの醸造、瓶詰めまでを一貫して行なっていた牛久シャトー。日本のワイン文化の先駆けといえる歴史ある醸造所であり、敷地内には現在も当時の貴重な建築群が残っています。
近年になりその歴史的価値が広く認められ、2007年に経済産業省から「近代化産業遺産」に認定されると、翌2008年には「国の重要文化財(最初期の本格的ワイン醸造場施設)」に指定。さらに2020年には「日本遺産」にも認定されています。
敷地内には「牛久シャトーレストラン」や「牛久シャトーショップ」、「神谷傳兵衛記念館」なども併設され、牛久有数の観光スポットとして人気を集めています。
▼「旧事務室」(現:本館)、「旧醗酵室」(現:神谷傳兵衛記念館)、「貯蔵庫」(現:レストラン「キャノン」)の旧醸造場施設3棟が国の重要文化財に指定されています。万太郎と寿恵子との出会いのシーンは、本館の東隣、ちょっとした西洋庭園のようになっている空間での撮影かと思われます。
▼牛久シャトーで撮影された、アイドルグループ「≒JOY(ニアリーイコールジョイ)」の1st Song 『≒JOY』のMV。ほかにドラマ「花のあすか組!」(1988年)なども牛久シャトーでロケが行われています。
牧野富太郎の初上京のキッカケに 第2回内国勧業博覧会
▼牛久シャトーにそっくり?歌川広重(3代目)による「上野公園内国勧業第二博覧会美術館ならびに猩々噴水器之図」。※Wikipediaより引用。パブリックドメイン。
万太郎のモデル・牧野富太郎も、19歳だった1881年(明治14年)に第2回内国勧業博覧会の見物と、顕微鏡や書籍の購入を目的に初めての上京をしています。
※内国勧業博覧会は、明治時代に政府主導で開催された産業発展などを目的とした博覧会。東京(上野)で3回、京都と大阪で各1回の計5回開催されています。
牧野富太郎が見物した第2回は、1881年(明治14年)に東京・上野公園で開催され、これにあわせて上野公園の寛永寺本坊跡に煉瓦造2階建の建物が完成しています(上図)。1903年(明治36年)に建設された牛久シャトーの建築と似ていますね。
商家「岸屋」の後継者だった富太郎は、この初上京の際に憧れだった植物学者の田中芳男と小野職怒の元を訪ね、最新の植物学について見分を広げています。このエピソードは、「らんまん」でも里中芳生(いとうせいこう)と野田基善(田辺誠一)の出会いという形で描かれます。
富太郎はその足で日光へと向かい植物採集を行ったほか、高知への帰路には伊吹山などに立ち寄って植物採集を行っています。
なお、富太郎の生涯のパートナーとなる妻・壽衛子との出会いは内国勧業博覧会ではなく、植物研究を志して本格的に再上京した後のこと。「らんまん」で描かれる内国勧業博覧会での運命的な出会いは、フィクションのストーリーだと思われます。