NHK連続テレビ小説「エール」2020年10月29日放送(第99回)で、佐藤久志(山崎育三郎)が歌った曲「夜更けの街」についてまとめます。
この曲は、古関裕而が作曲、菊田一夫が作詞をし、伊藤久男が歌った実在の曲です。
酒浸りの久志 復活の第一歩「夜更けの街」
戦時に「露営の歌」「暁に祈る」など数々の戦時歌謡を歌ったことを深く後悔し、ギャンブルと酒浸りの日々を送っていた佐藤久志(山崎育三郎)。そんな彼を見捨てずにいたのが、藤丸や裕一など昔からの音楽仲間たちでした。
裕一から久志の現状を知った劇作家・池田二郎(北村有起哉)は、久志の復活を願い「夜更けの街」という詞を書き上げます。
「暗い酒場の ダイスのかげに ひょいと覗いた 地獄の顔よ」
池田が書いた詞は、まさに地獄の縁にいる久志の心情を描いたもの。久志は何を思ったのか、この詞を見ると「歌うよ」と言って録音への参加を承諾します。
さっそく裕一がこの詞に曲をつけると、久志は藤丸の励ましを受けて見事に歌い上げますが…。
酒浸りだった伊藤久男 復活の曲
この一連のエピソードは、佐藤久志のモデル人物である国民的歌手・伊藤久男の戦後の実話がモデルとなっています。
戦時中に「露営の歌」「暁に祈る」などを歌い、戦時歌謡の名手となった伊藤久男。しかし戦後はこうした活動を深く後悔し、疎開先に引きこもって酒に溺れる日々を送っています。元来伊藤久男は豪放ながらも繊細な人柄であり、お酒が大好きだった嗜好が悪い方へと向かってしまっていました。
周囲からは再起不能とささやかれていた伊藤久男でしたが、1947年(昭和22年)、松竹映画「地獄の顔」の主題歌「夜更けの街」で見事復活を遂げています。
「夜更けの街」は、劇作家の菊田一夫が作詞を担当。どん底の伊藤久男の心情をえぐったような菊田の歌詞に、盟友だった古関裕而が曲をつけると、曲は大ヒットを記録します。
鮮やかなカムバックを果たした伊藤久男は、その後に「栄冠は君に輝く」(古関裕而作曲、加賀大介作詞)、「イヨマンテの夜」(古関裕而作曲、菊田一夫作詞)、「ドラゴンズの歌」(古関裕而作曲、小島清作詞)、「ひめゆりの塔」(古関裕而作曲、西條八十作詞)、「数寄屋橋エレジー」(古関裕而作曲、菊田一夫作詞)ほか、古関裕而とのコンビなどで数々の名曲を発表。
紅白歌合戦に11度出場するなど、国民的歌手として活躍をしていくことになります。
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