NHK連続テレビ小説「おちょやん」(NHK大阪)では、ヒロイン・竹井千代役を演じる杉咲花の河内弁+大阪弁に注目が集まりそうです。
ヒロインのモデル・浪花千栄子は南河内生まれで、大阪・道頓堀での女中奉公時代に古き良き大阪弁を習得した経歴を持ちます。そのあたりの経緯などもまとめます。
南河内、道頓堀、京都…流浪のヒロイン
NHK大阪製作の朝ドラは、出演者たちが話す関西弁のクオリティが何かと話題になります。新朝ドラ「おちょやん」は大正から昭和時代の南河内、道頓堀、京都などが物語の舞台であり、関西地方の中でも特徴的な言語を持つ地域として知られます。
千代は、少々言葉が荒い南河内地方で生まれ、8歳で芸人らが使う島之内言葉が残る大阪・道頓堀の芝居茶屋に奉公に出されます。千代はこの道頓堀で多感な時期を過ごし、古き良き大阪弁(島之内言葉)を習得。その後に父から逃れて京都へと逃亡することになります。
※千代の子供時代を演じる子役・毎田暖乃(まいだ・のの)は大阪出身。方言指導のテープを聞きながら学び、「おんどりゃー」などの豪快な河内弁を熱演しています。河内生まれの千代が、道頓堀に奉公に出されて次第に言葉が変化していく様子に注目。
ヒロイン・杉咲花は東京出身
昨今の大阪製作朝ドラは関東圏出身女優がヒロインを務めることが多く(安藤サクラ、葵わかな、芳根京子、波瑠など)、彼女たちが劇中で話す関西弁には毎回賛否の声が巻き起こります。
「おちょやん」でヒロイン・千代を演じる杉咲花も東京都の出身。その父でギタリストの木暮武彦(元レベッカ、RED WARRIORSメンバー)、母で歌手のチエ・カジウラも東京都の出身であり、コテコテの関東人として育っています。
「おちょやん」のヒロイン・千代は後に「大阪のお母さん」と呼ばれる女優へと出世していく人物であり、関西弁の話し方(河内弁、大阪弁、京都弁の使い分け)、その台詞回しなどはドラマの肝となっていきます。
こうした関西弁でのセリフ表現は関東圏出身俳優にとって非常に難しく、杉咲花の言語対応能力が問われていきそうです。杉咲花は台本にイントネーションの高低を矢印で事細かに書き込んだ上で、撮影に臨んでいるそうです。
事前番宣を見た限り杉咲花の大阪弁は自然に感じましたが、果たしてその評判は…。
「大阪のお母さん」女優・浪花千栄子
「おちょやん」ヒロインのモデルである女優・浪花千栄子(なにわ・ちえこ)は、京都の駆け出し女優時代、大阪の松竹家庭劇・松竹新喜劇の看板女優時代を経た後に数々の映画やドラマに出演し、「大阪のお母さん」として愛された名女優です。
明治末期に大阪南部・南河内(現在の富田林市東板持地区)で生まれた千栄子は、9歳で大阪・道頓堀の仕出し料理屋に女中奉公に出され、そこで芸人たちが話す島之内言葉などに触れて成長しています。
17歳で父から逃げるように京都へと向かうと、そこで京都の文化に触れながら女優としてのキャリアをスタート。京都・等持院撮影所などを経て、大阪に戻って上方喜劇の世界で活躍を見せていきます。ともに喜劇の世界で奮闘した夫・渋谷天外と離婚後は思い出の地・京都へと身を隠し、女優として見事復活した後には京都・嵐山に終の棲家を建設しています。
幼少期に荒っぽい河内弁で育ち、多感な時期に大阪市中の言葉(島之内言葉など)を習得、そして異文化といえる京都弁の洗礼を受ける…。浪花千栄子は知らずしらずのうちに関西弁の地域差、細かいニュアンスなどを体感し、それが後に女優としての武器になっていきます。
古き良き「大阪弁」を全国に伝えた浪花千栄子
大阪大空襲などで大阪中心部の人たちが散り散りとなり、船場言葉、島之内言葉などの古き良き言葉が薄れつつあった戦後の大阪。
ドツキ漫才と相性が良かった河内弁や和泉弁に影響を受けた「新しい大阪弁」のようなものが浸透していく中で、物腰が柔らかくゆったりとした船場言葉、島之内言葉が絶滅していくのではないかという危惧の声があがっていたそうです。
そんな中、ラジオドラマ「アチャコ青春手帖」や数々の映画などで浪花千栄子が話した大阪弁は、柔らかく上品、これぞ古き良き大阪市中の言葉といったもの。昔の大阪弁をよく知る人達から称賛の声が集まるとともに、作品を通して関西以外の地域に大阪弁の良さが伝えられました。
「おちょやん」において大阪弁、関西弁は主人公の生い立ち、バックグラウンドを表す重要な要素となっていきます。東京都出身の杉咲花がどこまで関西の文化、言葉に馴染んでいくことが出来るのか楽しみです。