NHK連続テレビ小説「ブギウギ」に登場する梅丸少女歌劇団(USK)の音楽部長・林嶽男(橋本じゅん)についてまとめます。
林部長は、松竹楽劇部で音楽部長をしていた松本四郎(四良)という人物がモデルになっています。今もOSK日本歌劇団の象徴的テーマソングとして歌い継がれる「桜咲く国」は松本四郎による作曲です。
【ブギウギ】鈴子にチャンスを与えてくれる USK音楽部長・林嶽男
花咲音楽学校の受験に失敗した後、梅吉(柳葉敏郎)の勧めにより梅丸少女歌劇団(略称:USK)を受験することにした鈴子(澤井梨丘)。
ところが梅吉のやらかしにより受験日を間違えてしまったらしく、会場に行ってみると試験はすでに終了していました。
「歌と踊りだけでも見てください!」とUSKの事務員に食い下がる鈴子の姿を見た音楽部長の林嶽男(橋本じゅん)は、「しゃーないから歌わせてみぃや」と温情を見せることになります。
さっそく鈴子が十八番の「恋はやさし野辺の花よ」を披露すると、林部長は何かを感じたのか「入れたれや!どうせすぐ何人か辞めるやろ。上にはわしから言うとくわ」と発言。
おおらかな林部長のお陰で、鈴子はUSKに合格することになります。
▼「マムシの生き血を愛飲」するらしい林部長を演じるのは、兵庫県神戸市出身の59歳の俳優・橋本じゅん。人気劇団「劇団☆新感線」所属。名脇役として知られ、最近では「#家族募集します」「恋はDeepに」「カナカナ」「ハヤブサ消防団」などに出演。朝ドラは「ひらり」「なつぞら」「エール」に出演。
【#ブギウギ 登場人物紹介💃】
— 朝ドラ「ブギウギ」公式 (@asadora_bk_nhk) September 6, 2023
林嶽男:橋本じゅん
道頓堀にある梅丸少女歌劇団(USK)の音楽部長。歌劇団の現場責任者。強面(こわもて)だが、実は優しく面倒見が良い。#林部長 pic.twitter.com/F5kwIK5rhD
【ブギウギ】USK団員の父親的存在 林部長
林音楽部長は現場の責任者であり、若きUSK団員たちの父親的な存在でもあります。
コワモテで物言いは厳しいものの、心根はとても優しい林部長。立身出世を夢見る少女たちの成長を常に見守るとともに、劇団内でトラブルが発生した際には団員の目線に立ち、上層部との間も取り持ってくれます。
「大阪が一番や!」「東京がなんぼのもんじゃい!」という反骨精神を持ちながらも、どこかで東京の最新の流行が気になって憧れや嫉妬心も抱いてしまう林部長。
そんな複雑な感情を持った林部長の思いは、USK団員たちの才能の開花という形で昇華されていきます。
悩み多きUSK生活を送る鈴子にとって、林部長は良き理解者になっていきそうです。
【史実】モデルは松竹楽劇部の音楽部長・松本四郎
「ブギウギ」に登場する林部長は、笠置シヅ子(鈴子のモデル)の恩人である松竹楽劇部の音楽部長・松本四郎(四良)がモデルになっています。
1922年(大正11年)、松竹創業者である白井松次郎の提案により発足した松竹楽劇部(現在のOSK日本歌劇団)。すでに成功を収めていた宝塚少女歌劇団から舞踏家の楳茂都陸平、作曲家の原田潤、松本四郎らを招聘し、宝塚少女歌劇団を模倣する形でその歴史がスタートしています。
1927年(昭和2年)。身体が小さいという理由で宝塚音楽学校を不合格になった笠置シヅ子は、「近所のおばはん」から道頓堀で宝塚のようなことをやっている団体があると聞き、すぐに松竹楽劇部の事務所を突撃しています。
シヅ子は事務所で「わては宝塚でハネられたのが残念だんね。こうなったら意地でも道頓堀で一人前になって、なんぼ身体がちっちょうても芸に変わりはないところを見せてやろう思いまんね。どんなことでも辛棒しますさかい、先生、どうかお願い申します」などとペラペラと直訴。
すると、それを奥で聞いていた音楽部長の松本四郎が「ようしゃべるオナゴやなあ。そないにしゃべれるのやったら、身体もそう悪いことないやろ。よっしゃ、明日から来てみなはれ」と反応しています。
いかにも大阪的なおおらかなやり取りの末に、シヅ子は松竹楽劇部生徒養成所への入所が決定しています。
「三笠静子」の芸名をもらい松竹楽劇部での芸能活動をスタートさせたシヅ子は、恩人である松本四郎に報いるために懸命な努力を重ねていきます。
また、松本四郎の方もシヅ子のことを気に入ったようで、身体が小さかったシヅ子のために屠牛場から牛の生き血を瓶に詰めてきて飲ませるなど、何かとシヅ子に目をかけていたようです。
【史実】「桜咲く国」の作曲者・松本四郎(四良)
ドラマ同様に、音楽部長として松竹楽劇部の団員たちを温かく見守っていたであろう松本四郎。
もともとは宝塚少女歌劇団(東宝系)に所属し、作曲家として見込まれて松竹楽劇部に引き抜かれたという経緯からも、クリエイターとして確かな実力があったようです。
松竹楽劇部は現在OSK日本歌劇団となり三大少女歌劇のひとつに数えられる人気を誇りますが、その象徴となっている曲「桜咲く国」(レビュー「春のおどり」テーマソング)も、音楽部長だった松本四郎による作曲です(作詞は岸本水府)。
※姉妹劇団だった東京のSKD(当時は東京松竹楽劇部)では、「桜咲く国」はレビュー「東京踊り」のテーマソングとして愛された。
「桜咲く国」は、1930年(昭和5年)の松竹楽劇部の大阪松竹座公演「(第5回)春のおどり さくら」で発表されています。
その前年に舞台上のアクシデントから偶発的に生まれた「傘回し」のパフォーマンスと、新曲「桜咲く国」が合体したことで、こんにちまで受け継がれるフィナーレ「桜咲く国の傘回しパフォーマンス」が誕生しています。
※1929年(昭和4年)、ゲスト出演していたフランス人歌手・ドフランヌ嬢が紙吹雪を吸い込んでしまい声が出せなくなるというアクシデントが発生。これ以降、紙吹雪の吸い込みを防ぐために舞台上で傘を回したのが、OSK名物「傘回し」の起源とされます。
なお、後年に松本四郎が古巣である東宝に移籍してしまったため、東京のSKDでは「桜咲く国」は使用されなくなっています(その後、1970年に復活)。
一方大阪のOSK(旧・松竹楽劇部)では松本四郎の移籍後も「桜咲く国」が使用され続けており、武家文化のキッチリした東京と、商人文化の実利的な大阪の気風の違いなのでは?などとファンの間で面白おかしく語られています。