NHK連続テレビ小説「ブギウギ」でアホのおっちゃん役を演じていた岡部たかしが、「虎に翼」では一転して主人公の父親役で出演します。
この記事では、寅子の人生に大きな影響を与えていく父・猪爪直言(いのつめ・なおこと)の人物像をまとめるとともに、モデルになっている三淵嘉子の父・武藤貞雄についてまとめます。
【虎に翼】先進的で優しい父・直言 愛娘の寅子にデレデレ
寅子の父・猪爪直言(岡部たかし)は、帝国銀行に勤めるエリートビジネスマンです。少しお調子者なところはありますが、直言は女性の意見や意思をしっかり尊重するなど先進的な考えを持っています。
特に愛娘の寅子(伊藤沙莉)のことが可愛くてしかたがないらしく、直言はいつでも寅子に甘く、無条件に味方をしてくれます。
寅子はある出来事をキッカケに法律を学びたいと思うようになりますが、結婚することが当然の当時の女性が法律を学ぶなどというのは極めて奇怪な行動であり、母のはる(石田ゆり子)は法科への進学に猛反対していきます。
一方の直言は、嫌がっている寅子に無理やり見合いをさせることに抵抗感を持っていたらしく、娘の夢を聞いて俄然前のめりに。妻のはるの顔色を伺いつつも、娘の夢の芽生えをバックアップしていきます。
猪爪家の家族や書生の佐田優三(仲野太賀)に大きな優しさを見せていく直言ですが、やがて仕事上で大きな汚職事件に巻き込まれていきます。そこで垣間見える優しいだけではない直言の人間味あふれる姿が、ドラマ序盤の大きな見どころになりそうです。
▼第1回放送では、直言から手放しに歌と踊りを褒められてきた寅子が「梅丸少女歌劇団」入団を目指す場面も。直言から無条件に褒めちぎられて育てられた寅子は、強い自己肯定感を持っているようです。
【演:岡部たかし】ブギウギで「アホのおっちゃん」役を演じ高評価
易者さんにアホのおっちゃん、ゴンベエさん、キヨさんアサさん、熱々先生。そして光子さん。義理と人情の風呂屋・はな湯のメンバー。
— 朝ドラ「ブギウギ」公式 (@asadora_bk_nhk) March 28, 2024
にぎやかなクランクアップでした!💐#なだぎ武 #岡部たかし #宇野祥平 #本上まなみ #三谷昌登 #楠見薫 #妹尾和夫#ブギウギ #ブギウギクランクアップ pic.twitter.com/tAxrAdqDbz
直言を演じている岡部たかしは、和歌山県出身の51歳の俳優。数多くの舞台や映像作品で活躍してきた名優として知られますが、特に近年はクセの強いおっちゃん役などでテレビドラマに引っ張りだこになっています。
2022年放送のNHK夜ドラ「あなたのブツが、ここに」では尼崎の配送会社の社長・葛西役を演じ、いい加減で女ったらしな経営者役を好演。2023年のテレビ朝日系ドラマ「ハヤブサ消防団」でも、ミステリーの鍵を握ったまま衝撃の死を遂げる呉服店店主・徳田省吾役を怪演。
他にもNHKドラマ「17歳の帝国」「軍港の子 〜よこすかクリーニング1946〜」や民放ドラマ「恋はつづくよどこまでも」「エルピス-希望、あるいは災い-」など人気作に多数出演。気の良いおっちゃん役、パワハラ&セクハラの中年男役、ダークな犯罪者役など幅広い役柄を見事に演じ続けています。
朝ドラファンとしては、直近の朝ドラ「ブギウギ」の銭湯の常連客「アホのおっちゃん」役が強烈な印象として残っていることでしょう。
普段何をしているのか、どうやって稼いでいるのか謎すぎる、いかにも大阪の下町にいそうな「アホのおっちゃん」。陽気でいい加減だけれどもどこかで影があるような、そんな人間臭い役柄を演じて高い評価を獲得しています。結局「アホのおっちゃん」とは何者だったのか、「アホのおっちゃん」がどこかから持ってきた桃は何かの伏線だったのか…。ドラマ終了後も視聴者の間では「アホのおっちゃん」に関する考察が続いています。
他にも朝ドラ「ひよっこ」(単発出演)、「なつぞら」(行方不明だったヒロインの妹・千遥の消息に関わる重要人物・川谷幸一役)、「エール」(銀行を経営する主人公の伯父の付き人・立川敦司役)に出演経験があります。
【猪爪直言のモデル】三淵嘉子の父・武藤貞雄
最後に、猪爪直言のモデルになっている「武藤貞雄」という人物についてまとめておきます。
ヒロイン寅子のモデルになっている日本初の女性弁護士・三淵嘉子の父の武藤貞雄は、帝国大学を卒業して台湾銀行に入行したエリートでした。貞雄の結婚相手となった武藤信子(嘉子の母)は、同じ香川・丸亀の出身。妻の家系である武藤家を存続させるために、貞雄は武藤家の入婿となっています。
信子と結婚した直後、貞雄は台湾銀行シンガポール出張所に転勤が決まり、嘉子は転勤先のシンガポールで生まれています。その後、貞雄はニューヨーク転勤が決まったために信子と嘉子は一足先に帰国。貞雄は単身で4年間のアメリカ生活を体験しています。※信子と嘉子は香川の実家で貞雄の帰りを待ち、貞雄がニューヨークから帰国すると一家揃っての東京生活をスタートさせています。
こうした海外経験により貞雄は自由で新進的な思考を持つようになり、そのことが娘の嘉子の人生に大きな影響を与えていきます。
貞雄は、女子の名門教育機関である東京女子高等師範学校附属高等女学校(現在のお茶の水女子大学附属高等学校)に通い優秀な成績をあげ続ける、知識欲が旺盛な嘉子の特性を早くに見抜いていたようです。
「お前は結婚して大人しく家庭に収まるような普通の女になってはいけない。何か専門的な知識を学んでそれを活かす仕事に就くのがようだろう」
「法律を学んでみてはどうだ?お前には向いていそうだ」「明治大学専門部を受験してみてはどうか」
まだ女性が働くことも、ましてや弁護士になる道なども開かれていなかった時代の助言としてはだいぶぶっ飛んでいるのですが、貞雄は遠くない未来に弁護士法の改正により女性にも弁護士への道が開かれることを予見していたのでしょう。
こうして嘉子は自由主義、放任主義の父の後押しを受けて法律家として花開いていくわけですが、貞雄自身の人生も軽やかに展開していきます。
貞雄は思うところがあり台湾銀行を退職すると、「石原産業海運」の顧問、「日本防災工業株式会社」の社長、「昭和火工株式会社」の専務などに次々と就任。武藤家はもとより裕福な家でしたが、貞雄は転職するたびに待遇が良くなっていったそうです。
やがて日本初の女性弁護士、裁判官、裁判所長になっていく三淵嘉子は、恐らく父・貞雄が持つ新進的で常識にとらわれない軽やかな気質を受け継いだのでしょう。
「虎に翼」でもこうした武藤貞雄の人間像をベースに、娘の夢を無条件に後押ししていく父・猪爪直言の姿が描かれていきます。
▼篤志家としての一面もあった武藤家では、故郷・香川丸亀から出てきた複数の学生たちを書生として受け入れていました。