NHK連続テレビ小説「あんぱん」第21回(2025年4月28日放送)では、政財界を巻き込んだ大スキャンダル「共亜事件(きょうあじけん)」が登場しています。
この「共亜事件」はフィクションの事件なのですが、同時代を描いた朝ドラ「虎に翼」(2024年放送)で大きく扱われた「共亜事件」を引用したオマージュと思われます。
千尋が見せる新聞記事「共亜事件」
1936年(昭和11年)の春。一年間の浪人生活が始まった嵩(北村匠海)は、相変わらず口うるさい伯母の千代子(戸田菜穂)から医大への進学を懇願されるなど、悩み多い日々を過ごしています。
そんな兄の姿を見かねたのか、弟の千尋(中沢元紀)はある新聞記事を手に嵩の部屋に入ってきます。
千尋「兄貴、共亜事件知っちゅうか?」
嵩「あ〜…。うん。キョーア事件な…」
千尋「どう思う?」
嵩「大変な事件だよなあ」
千尋「知らんことは知らん言うたほうがえいぞ」
「国民の注視を集めて 共亜事件 関係者否認 有罪か將た無罪か」(高知新報一面のタイトル)
千尋が手にしていた「高知新報」昭和11年4月10日付の一面記事は、共亜事件に関わったとして勾留された政界や財界の大物たちの現状を伝えたもの。
国民を巻き込んだ一大疑獄事件・共亜事件は、法の道を目指す千尋にとって大きな関心ごとらしく、千尋はこの記事を引き合いに自分がなぜ法の道に進みたいのかを嵩に力説。あわせて、嵩が本当は何に興味があるのかを問いただすことになります。
「虎に翼」で描かれた共亜事件 モデルは帝人事件
朝ドラファンの方であれば、この共亜事件というワードに聞き覚えがあることでしょう。
共亜事件は史実には実在しないフィクションの事件ですが、2024年に放送された朝ドラ「虎に翼」でヒロインの父・直言(岡部たかし)が大きく関わった疑獄事件・共亜事件を引用したオマージュであると考えられます。
▼共亜事件は、1934年(昭和9年)に発生した贈収賄疑惑事件(疑獄事件)「帝人事件」がモデルになっています。事件の詳細は以下の記事にまとめています。
▼こちらは「虎に翼」で登場した共亜事件の新聞記事。

「虎に翼」で共亜事件が描かれたのは第4週放送、時代設定でいうと1935年(昭和10年)のこと。当時、ヒロインの寅子(伊藤沙莉)は法律を学ぶために明律大学に通っていました。
共亜事件は、共亜紡績(※フィクション)という会社の株価が高騰すると知った上で不正に株式の取引が行われ、その利益が政財界の要人にばらまかれたのでは?と疑いがかけられた疑獄事件。贈収賄の疑いにより共亜紡績の重役、大蔵省の官僚、現役大臣など計16人が逮捕され、時の内閣がこれを受けて総辞職するなど国家を揺るがす大事件となっています。。
この逮捕者16人の中に、帝都銀行の経理第一課長として共亜株の取引実務を担っていた寅子の父・直言がいたから大変。直言が共謀して賄賂を贈ったとして勾留されると、猪爪家は国家的騒動である共亜事件の当事者として大きな渦に巻き込まれてしまいます。
結局、この共亜事件は調べども調べども何も実態が無く、最終的に被告人16人全員に無罪が言い渡されています。
内閣打倒などさまざまな思惑が絡み、でっち上げられた可能性がある共亜事件。法が果たすべき役割や人を裁くことの難しさがこの事件では浮き彫りになっており、正しい法の道を目指す「あんぱん」の千尋にとっても大きな関心ごとだったのでしょう。
▼桂場等一郎(松山ケンイチ)による共亜事件の名判決文「水中に月影を掬い上げようとするかのごとし」。実態のない事件の幻具合を見事に表現しています。
時代が重なる「あんぱん」「虎に翼」「カムカム」
「虎に翼」で共亜事件が発生したのが1935年(昭和10年)で、「あんぱん」で千尋が共亜事件の記事を手にしていたのが1936年(昭和11年)のこと。共亜事件は勾留期間が長引きましたので、千尋が新聞記事を手にした頃はちょうど事件が佳境を迎えていた頃なのでしょう。
このように「虎に翼」と「あんぱん」は時代設定が近く、両作品の時代背景を比較しながら見るのも楽しいかも知れません。
参考までに、「虎に翼」「あんぱん」、それに現在昼に再放送中の名作朝ドラ「カムカムエヴリバディ」の主人公たちの生年をまとめておきます。寅子はのぶの5歳上で、安子はのぶの6歳下ですね。
★「虎に翼」「あんぱん」「カムカム」生年比較
・猪爪寅子(虎に翼)…1914年(大正3年)生まれ
・柳井嵩、朝田のぶ(あんぱん)…1919年(大正8年)生まれ
・柳井千尋(あんぱん)…1921年(大正10年)生まれ?
・橘安子(カムカム)…1925年(大正14年)生まれ
▼「あんぱん」でのぶが一等商品のラジオをゲットしたのは、「カムカムエヴリバディ」で算太(濱田岳)が近所の荒物屋からラジオを盗んだ2年後のこと。こちらも時代設定が重なっています。
