NHK連続テレビ小説「マッサン」第10週より。
紆余曲折の末、ようやく鴨居商店で働き始めたマッサン(玉山鉄二)。ゆくゆくは工場長を任せられる予定だというマッサンの最初の仕事は、ウイスキー工場建設地の選定作業です。
×北海道 ○関西
マッサンはスコットランドに似た気候風土を持つ北海道が良いと提案しますが、鴨居欣次郎(堤真一)はこれを即座に却下。輸送コスト等を考えると北海道では採算がとれないというのが主な理由でした。
鴨居はマッサンに大阪近辺で候補地を探すように指示。マッサンは近畿各地を訪ね、ウイスキーづくりに適した土地を探す日々が始まります。
竹鶴が調査した工場候補地
▲水、湿度、気温、交通の便など、ウイスキーづくりの土地条件は難しい。
Photo by Norio NAKAYAMA
史実によれば、寿屋(現在のサントリー)に入社した竹鶴政孝(マッサンのモデル、ニッカウヰスキー創業者)も、国産第一号蒸溜所の候補地選びに奔走しています。
竹鶴は水質や近畿都市部からの交通の便を考え、佃(大阪府西成郡)、小林(おばやし、兵庫県武庫郡)、吹田(大阪府三島郡)、枚方(大阪府北河内郡)、山崎(大阪府三島郡)=いずれも当時の郡名=などを訪ね歩いた末、候補地は山崎が良いという結論を出しています。
山崎は水質が良く、大阪平野と京都盆地の中間にあり交通も至便。北に天王山が迫り、目の前に桂川、宇治川、木津川の合流点を見る山紫水明の地です。天王山からは良質の水が沸き出し、その地形から濃霧が発生しやすい場所でもあります。
古く万葉の昔から名水の郷として知られ、あの千利休も茶室(県境を越えた京都府大山崎に国宝・茶室待庵が残る)を営んだ地としても知られます。近畿地方において、山崎の地はウイスキーづくりにぴったりの場所だったのです。
▲地図を見てもわかる通り山崎は山が迫り、三つの川が合流する土地。 東海道線が間近に走ることも、重要なポイント。京阪間にあるため、都市部から工場見学にも行きやすい!
「工場見学誘致」商人・鴨居ならではの視点
話をドラマ「マッサン」に戻します。工場建設は北海道がいいと未練タラタラのマッサンに対し、鴨居は「山崎を重点的に調査せよ」と命じます。
マッサンは濃霧が発生する山崎を実際に調査し、ウイスキーづくりに適している土地だと判断するのですが、鴨居は山崎の地の可能性を別の角度から見据えていました。
山崎は山の麓を鉄道が走っており(京阪間の大動脈である東海道本線)、ここに工場を建設すれば必然的に人目につくことになります。商いのことを考えると、将来的に工場見学の需要を喚起できる山崎の地は可能性を秘めた土地である、というのが鴨居の結論だったのです。
終始「職人の目線」で候補地を選定していたマッサンにとって、こうした鴨居の着想は驚きに満ちたものでした。「水と油」(oil and water)と言われた二人ですが、互いの長所が噛み合い、いよいよ国産第一号の蒸溜所建設へプロジェクトは動き始めます。
※鴨居商店のモデルであるサントリーの「山崎蒸溜所」は、見学ができます。京阪間の交通至便な場所にあるので、京都・大阪観光のついでに足を伸ばしてみることをおススメします。
関連記事
・マッサンが建設に関わったサントリー山崎蒸溜所 見学も出来ます
・マッサンが北海道・余市を蒸溜所建設地に選んだ理由
・余市蒸溜所 「マッサン」のモデル竹鶴政孝がウイスキーに人生を賭けた場所
・ウイスキーづくりに欠かせない「ピート」って何?マッサンがこだわる本場の風味