NHK連続テレビ小説「スカーレット」のタイトルの意味などをまとめます。
「スカーレット」は、戸田恵梨香演じるヒロイン・川原喜美子が地元の信楽焼に惹かれ、男ばかりの陶芸の世界に飛び込んでいく物語です。
スカーレット(緋色)=信楽焼の理想
ドラマタイトルになっている英語「スカーレット(scarlet)」は色の名前であり、一般的には日本語における「緋色(ひいろ)」「真緋(あけ)」に当たる色とされます。言葉で説明すると、「黄色がかった赤」ですね。
物語の舞台となる滋賀県・信楽地方は焼き物の里として長い歴史があり、日本六古窯(ろっこよう)のひとつに数えられます。
信楽地方は良質の陶土が出る土地柄。鉄分の少ない土を焼成することで淡く温かみのある「緋色(火色)」が発色されるなど、信楽特有の土味を生かしたやきものが生み出されます。より理想的な火色=緋色を追い求めることは、信楽の陶芸家の大きなテーマと言えるでしょう。
火色、ヌケ、灰被り、自然釉…中世から受け継がれてきた信楽焼は釉薬を施さず、薪を燃料とする窯で数日間にわたり高温で焼成し、素地を固く焼き締める「焼締陶器」です。陶芸の森には、信楽焼の伝統の流れをくむ穴窯や登り窯が大小様々。実技講座の作品焼成、一般の方への貸し窯も行っております。 pic.twitter.com/HU78Eqvx0h
— 滋賀県立陶芸の森 (@tougeinomori) 2019年1月31日
ヒロイン・喜美子は様々な紆余曲折の末に、釉薬を使わない「信楽自然釉」という理想の作風にたどり着きます。また、喜美子の窯を受け継ぐべく陶芸家を志す最愛の息子は数奇な人生を歩み、陶芸家としてある「到達点」に辿り着きそうです。
信楽に生きる陶芸家が目指すもの、そして、一人の人間としての生き方の理想…。それが激しくも温かい「スカーレット=緋色、火色」という美しい色なのです。
また、日本では「緋色=思いの色」と表現される歴史がありますので(後述します)、登場人物たちの恋の様々、家族や友人への愛情も「スカーレット」の色のように燃えていきそうです。
※追記:映画「風と共に去りぬ」スカーレット・オハラ要素も?
「スカーレット」は、1939年公開のアメリカ映画「風と共に去りぬ」の主人公「ケイティ・スカーレット・オハラ(Katie Scarlett O’Hara)」にも掛けた題名かも知れません。
二人の夫を亡くし、三度目の結婚相手との間に生まれた愛娘も失ったスカーレット。ついに夫にも家を出ていかれてしまったスカーレットがラストシーンで口にした「Tomorrow is another day(明日は明日の風が吹く)」は、映画史に残る名台詞として知られます。
ヒロイン・川原喜美子(カワハラとオハラで名前が似ていますね)に降りかかる、数々の人生の試練、愛する人との別れ。物語の最後に、喜美子が思わず「Tomorrow is another day」と口にしてしまうような、そんな激動の人生が描かれるかも知れません。
以下、色としての「スカーレット」ならびに「緋色」の歴史を簡単にまとめます。
▼「スカーレット」のストーリーは、実在の陶芸家・神山清子(こうやま・きよこ)さんの波乱万丈の人生がモチーフ。過去には田中裕子主演により、神山さんの半生が映画化されています。
スカーレット 色の歴史
主婦の友社「色の名前507」によれば、スカーレットは中世ラテン語の「スカルラトゥム」に由来し、さらにさかのぼればペルシア語の織物(茜染めの高級織物)の名前であったとか。
ただし、欧州におけるスカーレットは茜染めではなく、コチニールという貝殻虫などによる黄みの赤でした。
スカーレットは枢機卿職(すうききょう、すうきけい。カトリック教会における教皇の最高顧問)がまとう聖職者服の色であるほか、淫婦や姦通といった罪の象徴の色でもあったそうです。
ドラマのネタバレになるので詳細は書きませんが、この「罪の象徴の色」というのも、ヒロイン夫婦に降りかかる「ある危機」とリンクしていきそうな気がします。
▼枢機卿の礼服。スカーレット=緋色は、信仰のためならいつでもすすんで命を捧げるという枢機卿の決意を表す色だとか。画像はwikipediaより転載(パブリック・ドメイン)。
歴史ある日本の緋色
一方、日本における緋色(真緋)も古い歴史を持ちます。緋色は茜(アカネ)の根の煎汁を染料として用いる「茜染」のうち、最も鮮やかな黄赤色のものを指します(これに対し、濃く暗い赤色を茜色という)。
大化3年(647年)に制定された「七色十三階の冠」の冠位のうち、13階中7番目(大錦)と8番目(小錦)において真緋の服の着用が規定されたほか、天平の時代には僧侶の袈裟の色として紫に次ぐ高位を表したなど、緋色は古くから日本で用いられた色です。
緋色=思いの色
また、平安時代には緋色を「思いの色」と呼ぶこともありました。当時、「思い」は「思ひ」と書きましたので、この「ひ」から火→火色、緋色へと連想が広がり、「火のような」熱い思いを緋色で表現するようになったのです。
古今和歌集(巻十九)には、「おもひのいろ」に関する以下のような歌が残されています。
みみなしの やまのくちなし えてしがな おもひのいろの したぞめにせむ
(耳成の 山のくちなし 得てしがな 思ひの色の 下染めにせむ)
歌の意味は、「耳成山に生えている(黄色染料の原料として用いられる)クチナシが欲しい。そのクチナシの山吹色を下染めにして、わたしの熱情、熱い恋の思い=火色、緋色をボカしてしまいたい」といったところです。
ドラマ「スカーレット」でも、ヒロインが見せる陶芸への情熱や、愛する人への消えぬ思いなど、「おもひのいろ」を描くような描写がありそうです。
参考図書 :「色の名前507」(主婦の友社)、「すぐわかる日本の伝統色」(東京美術)