NHK連続テレビ小説「虎に翼」に登場する明律大学の教授・穂高重親(ほだか・しげちか)の人物像などをまとめます。
穂高重親は、渋沢栄一の初孫で法学者として活躍した穂積重遠(ほづみ・しげとお)がモデルになっています。穂高重親を演じる小林薫は大河ドラマ「青天を衝け」で主人公・渋沢栄一の父親役を演じたことでも知られます。
【虎に翼】寅子の運命を変える恩師・穂高重親
明律大学法学部の夜学に通う書生・佐田優三(仲野太賀)にたまたまお弁当を届けたことで、法律の教育現場に出会うことになる猪爪寅子(伊藤沙莉)。法学者で同大教授の穂高重親(小林薫)は、突然教室に現れた寅子の才覚をいち早く見抜き、明律大学女子部法科に誘うことになります。
穂高重親は堅物が集まる法曹界の重鎮でありながら、おおらかでひょうひょうとした人物。女子教育の普及にも熱心であり、明律大学女子部の設立に尽力したことでも知られます。
寅子ら女子部に入学した学生たちは、柔らかく噛み砕くように法律事例を教えてくれる穂高の講義を通して、どんどんと法律の世界にのめり込んでいきそうです。
やがて穂高のもとで学び明律大学女子部を巣立ったメンバーの中から、日本初となる女子の高等試験(現在の司法試験)合格者、弁護士が生まれていきます。
寅子もその一人になっていくわけですが、穂高としては寅子を法の世界という茨の道に誘い込んでしまったという自責の念もあるようです。
穂高は寅子にとって「生涯の恩師」になっていくとのこと。幾多の苦難にぶち当たるであろう寅子の人生において、穂高の存在は大きなものになっていきそうです。
#トラつば人物紹介
— 朝ドラ「虎に翼」公式(4/1放送開始) (@asadora_nhk) March 16, 2024
穂高重親 #小林薫
高名な法学者。女子教育に熱心で明律大学女子部の立ち上げに尽力し、教べんをとる。おおらかで何事にも動じないが、ひょうひょうとしておちゃめな一面も持つ。寅子(伊藤沙莉)にとっての「生涯の師」。#朝ドラ #トラつば #4月1日スタート pic.twitter.com/zwEtk6io39
【史実モデル】渋沢栄一の初孫・穂積重遠がモチーフに
小林薫が演じている法学者・穂高重親は、日本の資本主義の父と呼ばれる偉人・渋沢栄一の初孫にあたる法学者・穂積重遠(ほづみ・しげとお)がモデルになっていると考えられます。穂積重遠は東京帝国大学教授ならびに法学部長、最高裁判所判事などを歴任し「日本家族法の父」と呼ばれた法曹界の偉人です。
1883年(明治16年)、渋沢栄一の長女・歌子と枢密院議長などを務めた法学者・穂積陳重の長男として生まれた穂積重遠。祖父の栄一の影響により幼少期から論語を読み込み、成績優秀のうちに東京帝国大学(民法などを学ぶ)を卒業すると、そのまま大学に残り講師に採用されています。
欧州留学などを経て法学者として歩み始めた穂積重遠は、「戦争と契約」「離婚制度の研究」など時勢を捉えた研究を行うと、民法改正に向けた調査と提案などにも従事。
1933年(昭和8年)頃には寅子のモデル・三淵嘉子らに恩恵を与えた弁護士法の改正(女性が弁護士資格を取得することが認められる等)にも情熱を注いでいます。
▼ちょっと見づらいですが、大河ドラマ「青天を衝け」放送の際に作成した「渋沢栄一の家系図」を掲載しておきます。穂積重遠は渋沢栄一と尾高千代の長女・歌子の長男。「青天を衝け」では千代役を橋本愛が、歌子役を小野莉奈が演じています。
【史実モデル】女子教育に熱心 明治大学専門部女子部設立に尽力
法曹界に大きな足跡を残した穂積重遠ですが、後進の教育、特に女子教育、女子法律家の育成に力を入れていたことでも知られます。
前述したように穂積重遠の貢献もあり女性が高等試験(現在の司法試験)を受けて弁護士になるという道筋(=弁護士法改正)が立てられますが、こうした機運に前乗りするように、穂積重遠が中心となり明治大学専門部女子部(法科、商科)が設立されています(1929年)。当時、明治大学専門部女子部は女性が法律を学べる唯一の高等教育機関でした。
寅子のモデル・三淵嘉子は創立間もなかった明治大学専門部女子部の法科に入学し(卒業後に明治大学法学部に進学)、女子部の教授を務めていた穂積重遠から民法を習うなど、法曹界の重鎮の薫陶を受けています。
穂積重遠は美声の持ち主で語り口もソフトだったそうで、駆け出しの法律学習者だった女学生たちも聞きやすかったことでしょう。彼の薫陶を受けた女子部の生徒の中から、後に日本初となる女性の高等試験合格者、弁護士が3名(三淵嘉子、中田正子、久米愛)誕生しています。
【余談】「青天を衝け」で渋沢栄一の父を演じた小林薫
穂高重親役を演じる名優・小林薫は、穂高のモデルになっている穂積重遠と関係が深い役柄を過去に演じています。
2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」では、小林薫は主人公・渋沢栄一の父・渋沢市郎右衛門役で出演。血洗島(埼玉県北部)を飛び出し実業家として大成した渋沢栄一を育てた、実直な父親役を好演しています。
市郎右衛門から見ると、穂積重遠はひ孫にあたる人物。小林薫は今回の役柄が渋沢栄一の縁者だと知り、その不思議な縁に驚いたと語っています。
また、小林薫は2009年放送の裁判をテーマにしたNHKの社会派ドラマ「気骨の判決」で実在の裁判官・吉田久役を演じていますが、この吉田久という人物は穂積重遠ととても親しい間柄だったのだとか。「気骨の判決」と「虎に翼」は同じ司法、裁判官をテーマにしたNHKのドラマであり、不思議なめぐり合わせですね。
今回の役柄を演じるにあたり、小林薫は専門的なセリフ回しも多い裁判のシーンが大変だったと語っています。「虎に翼」は迫力ある裁判のシーンが見どころの一つであり、小林薫の熟練の演技、法廷バトルが楽しめそうです。