NHK連続テレビ小説「おちょやん」で千代が所属する劇団・山村千鳥一座が演じる舞台「正チャンの冒険」の元ネタについてまとめます。
「正チャンの冒険」が登場するのは、第5週から第6週放送にかけてのこと。女優として歩み始めた千代にとって大きな転機となる作品です。
山村千鳥一座の舞台「正チャンの冒険」
千代(杉咲花)は最初に所属することになる京都の劇団「山村千鳥一座」で舞台デビューし、女優としてのキャリアをスタートさせていきます。
千代にとって転機となるのが、座員・薮内清子(映美くらら)が台本を書き上げた「正チャンの冒険」という作品です。
客足が伸び悩んでいた一座にとって、当時人気だった漫画をもとにした「正チャンの冒険」は今後の命運を賭けた公演となっていきます。
ところが、主役の正チャンを演じる予定だった清子が本番前日に足に怪我を負ってしまい…。
大正当時の人気漫画「正チャンの冒険」
漫画「正チャンの冒険」は1923年(大正12年)頃から約3〜4年間、日本初のグラフ誌「アサヒグラフ」ならびに「朝日新聞・朝刊」で連載された(新聞4コマ)漫画です。
主人公の少年・正チャンと相棒のリスによる冒険ドラマで、当時としては斬新だった西洋的なセンスあふれる画風、童話のような幻想的な空気感が特徴的。当初は4コマ漫画としてスタートし、人気とともに長編ストーリーも描かれています。
日本で初めて吹き出しを使用した漫画であることや、主人公と動物がタッグを組むところなど、こんにちの漫画のスタイルに通じるところがあると言えます。
大きなボンボンがついた毛糸の帽子が「正チャン帽」と呼ばれて子供たちの間で人気になるなど、社会的な反響も大きかった作品です。
浪花千栄子 転機の舞台「正チャンの冒険」
「おちょやん」で描かれるこれら一連のエピソードは、千代のモデルである女優・浪花千栄子が駆け出し女優時代に主役(代役)を演じた舞台「正チャンの冒険」がモデルになっています。
京都・新京極の三友劇場を根城に活動していた「村田栄子一座」に入団した千栄子は、人生最初の師匠・村田栄子に演技の基礎を学ぶと、入団から2〜3ヶ月後に大きなチャンスを掴んでいます。
当時人気だった漫画を題材とした舞台「正チャンの冒険」を上演していた村田栄子一座。ところが主人公・正チャン役の女優(村田栄子か)が急病で倒れてしまうと、急遽代役が必要になってしまいます。
そこで白羽の矢があたったのが、一座で最年少だった千栄子でした。少年である正チャンを演じるのに若い女性が向いていたことや、舞台袖でずっと見守っていた千栄子がすべてのセリフを暗記していたことなどが抜擢の決め手でした。
千栄子は素人演技で半ばヤケクソ気味に、元気ハツラツ、オーバーアクションで走り回る正チャンを演じています。
舞台いっぱいに飛び跳ねる千栄子の演技はなぜか観客に大ウケ。千栄子は一躍劇団の人気女優の一人となり、これをキッカケに大手映画製作会社・東亜キネマ(京都・等持院撮影所)に所属するという新しい道が開かれます。