NHK連続テレビ小説「花子とアン」より。安東はな(吉高由里子)の夫・村岡英治(鈴木亮平)の弟・郁弥(町田啓太)にはモデルとなった人物がいます。
明治から大正期に横浜に実在した「福音印刷」(村岡印刷のモデル)は村岡儆三の父・平吉が興した会社で、平吉の子供たち六男二女のうち、父の会社に入社しているのは二人のみ。三男の儆三が東京本社を、五男の斎(ひとし)が横浜本社の経営を引き継ぎました。
このうち三男・儆三は英治として「花子とアン」に登場していますので、恐らく五男の斎が郁弥にあたると思われます。
ロンドン留学で印刷技術を学んだ斎
五男・斎は福音印刷の経営が軌道に乗ってからの子であり、父によりしっかりとした教育を与えられました。斎はキリスト教系の明治学院に通った後、三年間ロンドンに留学。そこで最新の印刷術を学んで日本に帰国し、福音印刷を手伝うようになります。
学者肌であった儆三と父譲りの実業家肌であった斎は、お互いの足りない部分を助け合う良いコンビだったようです。また、斎は兄の妻・村岡花子を慕ってよく家に遊びに来たそうで、「情と活気に満ちた愛すべき性格」(『アンのゆりかごー村岡花子の生涯』より)だったそうです。
こうした斎の人物像も、町田啓太が演じる愛らしい郁弥と一致します。
▼この記事は「花子とアン」原案『アンのゆりかご』を参考にして書かれています。
斎の結婚相手は西村巴
郁弥はかよ(黒木華)の甲州弁にべた惚れ。やがて二人の仲は近付いて行きます。では、実在の斎の恋はどうだったのか。調べてみました。
斎は父・平吉の朋友であり共に指路教会設立に尽力した西村庄太郎(三共製薬創業者のひとり)の次女・巴(ともえ)と結婚しています。この巴さん、とても美しく気だても良く、ピアノが上手だったとか。教会では若い男子たちの視線を一身に集めていたようで、大層モテモテだったそうです。
斎も巴にべた惚れだったようで、二人の結婚生活は幸せなものだったようです。父・平吉が亡くなる10日ほど前に、斎と巴の間に長男・創(はじめ)が生まれています。平吉は孫の顔を見届けて、安らかな眠りについたようです。
「花子とアン」に登場する次女・かよは実在の人物ではなく(村岡家は四男四女の八人兄弟で、花子が長女。次女「千代」は北海道に嫁ぎ、三女「梅子」は北海道に開拓民として奉公に、四女「雪」は静岡の農家に嫁いでいる)、斎の妻・巴も花子の姉妹ではありません。
関東大震災で斎は死亡、福音印刷の未来も…
順風満帆に見えた福音印刷と斎の未来ですが、関東大震災により突然失われてしまいます。
震災により、横浜の福音印刷は跡形もなく崩壊、70名の職工が下敷きになり亡くなっています。その場に居たと思われる斎も巻き込まれ亡くなってしまいます。巴と創は無事だったようですが、残された兄・儆三は、結局福音印刷の再建を果たせずじまいとなります。
「花子とアン」に登場する郁弥もまた、関東大震災で被災してしまいます。かよのためにも彼には生き残って欲しいものですが…。郁弥の生死、安否は以下の記事にまとめました。ネタバレとなりますのでご注意下さい。
・【花子とアン】9月1日11時58分、郁弥のプロポーズ直後に関東大震災発生