NHK大河ドラマ「青天を衝け(せいてんをつけ)」のドラマタイトルの意味、由来などをまとめます。
このタイトルは、渋沢栄一が若き日に詠んだ詩「内山峡之詩」からとられています。
タイトルは栄一の詩「内山峡之詩」から
家業の藍販売のため信州、上州、秩父などをたびたび訪れていた若き日の渋沢栄一。栄一19歳の時には、従兄・尾高惇忠とともに信州に入り、V字谷の峡谷が美しい内山峡(長野県佐久市)を訪れています。
栄一と惇忠はこれら道中の様子を「巡信紀詩(じゅんしんきし)」という一篇の漢詩としてまとめています。この「巡信紀詩」の中に収められた栄一の長詩「内山峡之詩」が、ドラマタイトル「青天を衝け」の由来となっています。
現在、内山峡の巌壁にはこの「内山峡之詩」を記念した詩碑も建立されています。以下、「内山峡之詩」の内容を載せておきます。「渋沢青淵(せいえん)」というのは栄一の雅号です。
渋沢青淵先生内山峡之詩
襄山蜿蜒如波浪西接信山相送
迎奇険就中内山峡天然崔嵬如
刓成刀陰耕夫青淵子販鬻向信
取路程小春初八好風景蒼松紅
楓草鞋軽三尺腰刀渉桟道一巻
肩書攀崢嶸渉攀益深険弥酷奇
巌怪石磊磊横勢衝青天攘臂躋
気穿白雲唾手征日亭未牌達絶
頂四望風色十分晴遠近細弁濃
与淡幾青幾紅更渺茫始知壮観
存奇険探尽真趣游子行恍惚此
時覚有得慨然拍掌歎一声君不
見遁世清心士吐気呑露求蓬瀛
又不見汲汲名利客朝奔暮走趁
浮栄不識中間存大道徒将一隅
誤終生大道由来随処在天下万
事成於誠父子惟親君臣義友敬
相待弟与兄彼輩著眼不到此可
憐自甘払人情篇成長吟澗谷応
風捲落葉満山鳴
勢は青天を衝きて臂を攘て躋り
気は白雲を穿て手に唾して征く
上記の詩のうち、青字にした「勢衝青天攘臂躋 気穿白雲唾手征」がタイトルの由来となっている部分。この部分の読み下しをすると、
「勢(いきおい)は青天(せいてん)を衝(つ)きて臂(ひじ)を攘(まくり)て躋(のぼ)り、気は白雲(はくうん)を穿(うがち)て手に唾(つば)して征(ゆ)く」。
意味としては、「青天(青い空)を突き刺す勢いでヒジをまくって(壁を)登り、白雲を突き抜くような気力で手にツバをつけて(前、上へと)進む」といったところ。
栄一がこの詩を詠んだ19歳当時といえば、惇忠の影響で攘夷思想にのめり込み、それを心配した父・市郎右衛門が従妹の尾高千代を嫁にとらせた時期。
滑津川が作り出した内山峡のV字谷の風景を見て感嘆した栄一は、その険しさに自身のこれからの人生を重ね合わせたのでしょう。若き日の栄一の充実した気力、どんな困難にぶち当たっても「ヒジをまくって」「手にツバをつけて」壁を乗り越えてやろうという並々ならぬ決意や負けん気が見られます。
藍玉の鮮やかな「青」 家業が栄一の原点
「青天を衝け」では、鮮やかな藍(濃い青)が栄一ならびに生家「中の家」のイメージカラーになっています。栄一や「中の家」の家族たちは、自家製の藍玉を用いて染められた鮮やかな藍色の衣服を身にまとっています。
藍一筋に生きる市郎右衛門から商いの面白さを叩き込まれた栄一は、父とは違う道に進むものの、その根底には父が貫く「三方よし」の実直な商い、仕事ぶりが染み付いているようです。
後に「日本資本主義の父」になっていく栄一にとって、鮮やかな藍は原点と言える色。「青天を衝け」のタイトルにはそうした栄一の想い、初心も込められていそうです。