NHK連続テレビ小説「ブギウギ」第6週より。上京して羽鳥善一に師事することになる福来スズ子が手にした新曲の楽譜「ラッパと娘」についてまとめます。
この「ラッパと娘」は、師弟コンビだった笠置シヅ子と服部良一により生み出された戦前の和製ジャズの名曲として知られます。
♬バドジズ デジドダー〜 羽鳥善一の不思議なジャズ曲「ラッパと娘」
演出家の松永大星(新納慎也)に見出され、同僚の秋山美月(伊原六花)とともに東京の新劇団・梅丸楽劇団(UGD)に参加することになった福来スズ子(趣里)。この梅丸楽劇団でスズ子は「歌の師匠」となる音楽監督・羽鳥善一(草彅剛)と出会っています。
羽鳥は初対面となったスズ子の持ち歌「恋のステップ」を聞くと、「ラッパと娘」と題した楽譜をスズ子に渡しています。
この「ラッパと娘」は、男女混合の画期的なミュージカルショーを目指す梅丸楽劇団のために、羽鳥が書き下ろした新曲。羽鳥は大阪から上京して5年、ようやくこの曲で念願のジャズがやれることになりウキウキしているようです。
一方のスズ子は、「ラッパと娘」というタイトルを見て「ええ題名やん」と気に入った様子。「♪楽しいお方も 悲しいお方も〜 」「♪バドジズ デジドダー〜 」というちょっと不思議な歌詞と明るい曲調を持つ羽鳥の楽曲と向き合っていきます。
さっそく羽鳥とのマンツーマンの稽古が始まり「ラッパと娘」を歌ってみるスズ子ですが、羽鳥は「なんだか聴いててあんまり楽しくないぞお」「ジャズは楽しくなくちゃ」「バドジズしてないよねえ」とあいまいなダメ出しを繰り返すばかり。
ジャズ、そして「バドジズ」が何なのかをさっぱり理解出来ないスズ子は、どう歌えばいいのかすっかり困ってしまい…。
SGDで運命の出会い 笠置シヅ子・服部良一の名コンビ
劇中に登場した「ラッパと娘」は、「福来スズ子・羽鳥善一」コンビのモデルになっている師弟コンビ「笠置シヅ子・服部良一」による戦前の和製ジャズの名作として知られます。
※笠置シヅ子は生涯で40枚以上のSP盤、60曲以上の音源を残していますが、その大半の曲を服部良一が作曲、作詞、または編曲をしています。
1938年(昭和13年)、笠置シヅ子は大阪松竹少女歌劇団(OSSK)を退団して上京し、帝国劇場で旗揚げする松竹楽劇団(SGD)に参加しています。
松竹楽劇団(SGD)の音楽監督だった服部良一は、「小柄で痩せ型」「下がり眉のショボショボ目」のシヅ子を初めて見た際には少しガッカリしたそうですが、そんな落胆も初日の舞台稽古で吹き飛んでいます。豪快な付けまつげで掛け声とともに歌い踊りまくるシヅ子を見た服部良一は、すぐにシヅ子の大ファンになったそうです。
戦前の和製ジャズの名曲「ラッパと娘」
▼笠置シヅ子のベスト盤的なCD「ブギウギ伝説」。「ラッパと娘」「センチメンタル・ダイナ」「東京ブギウギ」など、服部良一との名コンビによる代表曲が網羅されています。
服部良一の弟子としてレッスンを受けて頭角を現したシヅ子は、松竹楽劇団(SGD)で人気のジャズの歌い手となり「スイングの女王」と呼ばれるように。SGD入団翌年(1939年)には服部の尽力もあり、日本コロムビアの専属歌手にもなっています。
「ラッパと娘」は1939年(昭和14年)に服部良一が愛弟子のシヅ子のために作曲したもので、コロムビアの専属歌手となったシヅ子の一枚目のレコードとして発売されています。
服部良一は全身でスイングするシヅ子の歌声を用いて自分が目指すジャズ曲を作りたかったようで、ビッグバンド編成のジャズ楽曲「ラッパと娘」はそんな服部良一の願いが成就した一曲でした。
同年の松竹楽劇団(SGD)の公演「グリーン・シャドウ」において「ラッパと娘」がシヅ子によりが歌われると、シヅ子の跳ねるような歌声と踊り、SGDのバンドマスターでトランペッターの斉藤広義(「ブギウギ」一井のモデル?)との掛け合いが大評判に。「ラッパと娘」は笠置シヅ子・服部良一コンビの初期の名作になるとともに、戦前日本のジャズの名曲になっています。
この「ラッパと娘」を歌うにあたり、シヅ子は服部良一から高音を封印して地声で歌うように命じられています。「ジャズの発生法は地声が自然だ」という服部良一の持論を実践したシヅ子は、なれない歌唱法に喉を潰してしまい病院で歌うことを禁じられていますが、その足で舞台へと戻り根性で歌い上げたとか。
ドラマ「ブギウギ」でも羽鳥善一から斬新すぎるジャズ歌唱法を要求され、戸惑い続けるスズ子の姿が描かれそうです。
単に歌がそこそこ上手いというレベルだったスズ子が、羽鳥善一の薫陶を受けて唯一無二の「スイングの女王」に大化けする…。そんな歌姫の急成長を趣里がどう演じるのか、楽しみですね。
▼「ラッパと娘」のカップリング曲(B面)に収録された「センチメンタル・ダイナ」もドラマに登場。陽気な「ラッパと娘」とはうってかわり、「センチメンタル・ダイナ」は恋や人生に悩む女性を歌ったしっとりとした曲。
【余談・豆知識】
服部良一は「ラッパと娘」を作るにあたり、アメリカ映画「芸術とモデル(Artists and Models・1937年)」でマーサ・レイ(俳優・歌手)がトランペット奏者のルイ・アームストロングと掛け合いながら歌うシーンを参考にしたとか。この映画のワンシーンが、「ラッパと娘」の笠置シヅ子の歌と斉藤広義のトランペットの掛け合いの元ネタのようです。
ルイ・アームストロングといえば、名作朝ドラ「カムカムエヴリバディ」劇中に繰り返し登場し、二代目ヒロイン・大月るい(深津絵里)の命名由来にもなっていますね。