NHK連続テレビ小説(朝ドラ)「らんまん」6月1日(木)放送の第44回で、アメリカ人のクララ・ローレンスにより歌われた「The Last Rose of Summer(夏の名残のばら)」。
この歌の歌詞を説明する中で、万太郎は思わず寿恵子に「愛の告白」まがいの行為をしてしまい…。
クララが歌った「The Last Rose of Summer」
第44回放送では、高藤家のサロンで行われた西洋音楽の演奏会の様子が描かれています。
万太郎(神木隆之介)は田邊教授(要潤)のお供としてこの演奏会に同行しましたが、そこでドレス姿の寿恵子(浜辺美波)に遭遇。上流階級のサロンに寿恵子が居るという状況がさっぱり理解できない万太郎は、終始困惑の表情のまま演奏会をやり過ごすことになります。
演奏会では、寿恵子のダンスの先生を務めているアメリカ人女性 クララ・ローレンス(アナンダ・ジェイコブズ)によるピアノの弾き語り「The last rose of summer」も披露されました。寿恵子は歌詞の意味はわからないものの、「The last rose of summer」の美しい響きにうっとりとした表情を見せていました。
もはや告白?「愛する人をなくして誰がたった一人生きられようか?」
万太郎は、主催者の高藤雅修(伊礼彼方)と田邊教授のスキを見て、別室で寿恵子と二人きりになる機会を得ます。
寿恵子が舞踏の練習のためにここに呼ばれていることを知り少しだけ安堵した万太郎は、美しすぎる寿恵子のドレス姿に感情が抑えきれなくなり、思わず「キレイじゃ」を連発。それを聞いた寿恵子は「もう、馬子にも衣装です」と照れ笑いをみせますが、とても嬉しそうです。
「さっきの曲(The last rose of summer)もすごくきれいでしたね。なんて歌っているのかわからなかったけど…」
寿恵子がふっと呟いた一言に対し、英語が得意な万太郎は以下のように「The last rose of summer」の歌詞の意味を説明をしています。
万太郎「夏の最後のバラを歌っちょりました。夏の終わり、ほかのバラたちは枯れていって最後に一輪だけバラが残っちゅう…そういう情景を歌っちょりました」
万太郎「けんど、この歌は景色の歌じゃない…きっと本当の意味がありますきに」
寿恵子「本当の意味?」
万太郎「はい…。」
万太郎「(時が止まったかのように寿恵子をじっと見つめながら)…愛する人をなくして、誰がたった一人生きられようか?」
寿恵子「……。(万太郎を見つめながら思考停止)」
もはや寿恵子への愛の告白としか思えない、万太郎による歌詞解説。
残念ながらここで高藤の邪魔が入り、高藤が「お姫様抱っこ」で寿恵子を連れ去ってしまったため、万太郎はモヤモヤとして気持ちを抱えたまま翌日以降の研究活動を行うことになります。
【余談】万太郎のモデル・牧野富太郎は妻の壽衛子のことを深く愛したことで知られます。壽衛子は昭和3年に54歳の若さで亡くなっており(富太郎はそれから29年後に95歳で亡くなる)、富太郎は愛妻を偲んで新種のササに「スエコザサ」と命名。「The Last Rose of Summer」で一人残されたバラのように、富太郎は妻に先立たれて寂しい思いを味わっています。
「The last rose of summer」歌詞と意味
万太郎と寿恵子の距離をぐっと近づけるキッカケになったアイルランド民謡「The last rose of summer(夏の名残のばら)」。
もともと古くからあった「ブラーニーの木立」というアイルランド民謡の旋律に、アイルランドを代表する国民的詩人トマス・ムーアが1805年に書いた詩がのせられたことで、「The last rose of summer(夏の名残のばら)」として広く定着しています。
「らんまん」でも歌われた「The last rose of summer」の1番の歌詞を掲載しておきます。拙いですが日本語訳も併記しておきます。
Tis the last rose of Summer, Left blooming alone;
All her lovely companions Are faded and gone;
No flower of her kindred, No rosebud is nigh,
To reflect back her blushes, Or give sigh for sigh!
夏の名残のバラが 一人寂しく咲いている
彼女の仲間たちは みな色褪せて枯れてしまった
もはや同じ血筋の花は周囲に見当たらず 小さな蕾(つぼみ)すら近くにはない
仲間がいれば美しい赤みを互いに反映させたり ため息を分かち合うことが出来るのに!
かなり意訳をしてしまいましたが、「ともに咲き誇っていた赤いバラの仲間たちが次々に枯れてしまい、残されたのは自分だけ…」そんなバラの悲しく寂しい気持ちを歌ったものですね。
万太郎が寿恵子に説明した「愛する人をなくして、誰がたった一人生きられようか?」という歌詞内容と合致します。
日本では愛唱歌「庭の千草」として知られる 「ひよっこ」にも登場
この「The last rose of summer」は、日本では愛唱歌「庭の千草(にわのちぐさ)」として戦前から親しまれています。
「庭の千草」は、音楽家の里見義(1824〜1886)が「The last rose of summer」の歌詞を参考にしつつ、翻案により日本語の歌詞を作成。「庭の千草」の邦題となり、1884年(明治17年)には「小学唱歌集 第三編」に収められています。
2017年の朝ドラ「ひよっこ」では、ヒロインの一家と奥茨城村の近所の人たちが歌う稲刈歌(稲を刈り取るときに歌う仕事歌)として、この「庭の千草」が登場しています(第6回)。
「庭の千草」の歌詞は以下の通り。西洋的なバラが日本的な菊に置き換えられていますね。※原詞と同様に著作権は消滅しています。
庭の千草も むしのねも
かれて さびしく なりにけり
ああ しらぎく 嗚呼 白菊
ひとり おくれて さきにけり
露にたわむや 菊の花
しもに おごるや きくの花
ああ あわれあわれ ああ 白菊
人のみさおも かくてこそ