NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第1週に登場した沖縄ことば(沖縄方言、琉球語)をまとめていきます。
「あきさみよー」「ぽってかす!」「だからよ!」「わじわじする」など、どこか可愛い響きの沖縄ことばが次々に飛び出し、ネット上でも話題になっています。
藤木勇人(志ぃーさー)さんが言葉指導
「ちむどんどん」第1週では、1964年(昭和39年)の本土復帰前の沖縄本島北部(やんばる地方)の姿が描かれています。
ドラマの「沖縄ことば指導」を担当するのは、本編(鶴見編)にも沖縄料理店「あまゆ」の主人・金城順次役として出演する「志ぃーさー」こと藤木勇人さん。※藤木さんは1961年生まれ、沖縄県沖縄市(旧コザ市)出身。
戦後生まれの沖縄人が日常的に話す「ウチナーヤマトグチ」(沖縄方言と標準語が混ざった現代的な沖縄の言葉)をイメージし、劇中の言葉指導を行っているようです。ヒロインを務める沖縄出身の黒島結菜は、関東出身の子役たちの沖縄ことばの上手さに感激しているとのこと。
以下、第1週に登場した「沖縄ことば」をざっとピックアップしてみます。
まくとぅそーけー なんくるないさ
第1話で登場。お転婆と言われがちな主人公・暢子に対し、父・賢三が「自分の信じた道を行け」というメッセージを込めて発した「まくとぅそーけー なんくるないさ」。
この言葉は、暢子の人生の大きな支えとなっていきます。
▷「なんとかなる」という意味を持つ「なんくるないさ」は広く知られる沖縄の方言ですね。地元の人たちは「なんくる」などと省略して使うことも多いようですが、正しくは「まくとぅそーけー」という枕詞的な言葉が頭に付き、「まくとぅそーけー(=正しい行いやすべきことをしていれば)、なんくるないさ(=なんとかなる)」というのが本来の意味、使い方だそう。ヒロインの人生の指針となる言葉。
いんちきー
第1話で登場。比嘉家の食卓に「ゴーヤチャンプルー」がのぼると、4兄妹たちは我先にと奪い合いに。
「どいてー」「押すなー」といった言葉とともに、「いんちきー」という可愛らしい発言が飛び出しています。
▷標準語で「インチキ」といえば「不正やごまかしをする」といった詐欺師的なイメージで使われますが、沖縄ではもう少しマイルドに「ずるいー、いいなー」といった意味で使われることが多いようです。
〜してからに
第1話で登場。
飼っている豚「アベベ」と「アババ」の世話だけは熱心に行う長男・賢秀。息子にだけなぜか甘い母の優子は、「賢秀はえらいねー毎日ちゃんと世話してからに」と褒めちぎります。長女の良子は「お母ちゃんはニーニーに甘すぎるわけよ」と不満そう。
▷「〜してからに」は沖縄の人が良く使う言い回し。僕の知人の某沖縄出身芸人も多用していました。「〜からに」という表現は関西などでは「しやがって(例:勝手なこと言いよってからに)」といった不満のニュアンスが強いですが、沖縄では「していて」「するんだから」といったマイルドなニュアンスでしょうか。
だからよ!
第1話で登場。晩ごはんのフーチャンプルー作りを手伝うと殊勝なことを言い出した暢子に対し、賢秀が言った一言。「だからよ!目当てはつまみ食い。暢子は食い意地がはってるから」。
第3話でも、沖縄角力(ずもう)のルール説明に繰り返し質問を投げかけてくる和彦に対し、賢秀がしびれを切らして「だからよ!」と発言するなど、賢秀は「だからよ」を連発しています。
▷「だからよ」は沖縄の人が日常的に使いまくる「魔法の相槌」。「うん、そうだね(同意)」「へえー(相槌)」「それな!」「そうなんだよ!」「それがさあ…(やんわり否定へとつながる前フリ)」といった意味や、「マジかー」的な驚きの表現、相手の気まずい質問へのはぐらかしなど、言い方を変えることで喜怒哀楽なんでも表現できてしまう万能さを持ちます。沖縄以外の人が意味不明すぎて戸惑う言葉の一つ。
賢秀が第1話で使った「だからよ!」は、「また出た!」「オレ知ってるぞ」といったニュアンスで、自明なものに対するツッコミといった感じでしょうか。
第3話の相撲のシーンの「だからよ!」は、クドクドと質問を繰り返す和彦に対し、「いいから早く!」「だからよ、そんな細かいことはいいから」と言った苛立ちを表明したものでしょうか。
ヤマトンチュ
第1話で登場。東京から島に転校してきた青柳和彦に対し、次々に掛けられた「ヤマトンチュ」という呼び名。
▷この言葉も有名ですね。「ヤマトンチュ=大和人=本土の人」、「ウチナンチュ=沖縄の人」。ウチナンチュと似た意味で「シマンチュ=島の人=沖縄の人」。余談ですが、僕が知る奄美の友人たちは「シマッチュ=奄美群島の人」という言葉を多用していますね。
ちゃーならんさ(ちゃーんならんさ)
第1話で登場。村の共同売店で、安室のおばぁが発した悩み。「ウチも畑に出たいけど、もう腰が痛くてちゃーならんさー」。
▷「ちゃーならんさ(ちゃーんならんさ)」は、「どうしようもない」「どうにもならない」といった意味の沖縄方言。
でーじ
第1話のラストシーンなどで登場。海で捕れた貝を塩水で煮炊きし、暢子が隠し味となるシークワーサーを絞る。それを食べた4兄妹は「でーじ美味しい!」「さすが暢子!」と絶賛。
▷「でーじ」も沖縄の人が頻繁に使う言葉ですね。「とても」「すごく」「大変な事」といった意味で、物事を強調する時に使われます。「でーじやっさー」は大変だー!の意味で、ドラマで語り(ナレーション)を担当する沖縄出身のジョン・カビラは、NHKから出演オファーを受けた時に「デージヤッサー!」と驚き喜んだとのこと。
ぽってかすー!
第2話で登場。砂川豆腐店の長男・砂川智が、「たまには豆腐以外も食べたい」とぼやく弟と妹に対して投げかけた「ぽってかすー!芋もあるだろう」という発言。比嘉家の兄妹げんかの場面でも「ぽってかす!」がたびたび登場していますね。
▷「ぽってかすー」は、「アホ!バカ!」「まぬけ!」「あんぽんたん!」といった沖縄の罵倒の言葉。語感は可愛らしいですが、それなりに強い言葉のようです。もちろん可愛い弟妹たちへの発言ですから、智の口調はどこか優しさを含んでいました。
あきさみよー!
第2話などで登場。大叔父の賢三から頂いた魚のごちそうを砂川家にあげることになって、賢秀が思わず叫んだ「あきさみよー!」。
第3話でも、自分こそが沖縄角力の横綱だと主張する智に対し、賢秀が「あきさみよー!誰が決めた?」と発言。第4話でも愛豚のアババが潰されて食卓に並んでいることを知った賢秀が「あきさみよー!」と叫んでいます。
▷「あきさみよー」は、沖縄の人が驚いた時や呆れた時などに思わず口に出す感嘆詞。あらまあ!マジか!といった意味で、英語でいう「オーマイガー(Oh my god!!)」に相当。
ちむどんどん
ドラマのタイトルにもなっている「ちむどんどん」。暢子は何かワクワクすることがあるたびに、「ちむどんどんする!」と言って心の高鳴りを口にします。
暢子は人生の岐路に立つたびに、「ちむどんどんするか、しないか」を道しるべとして生きていくことになります。
▷「ちむどんどん」は、「胸(ちむ)」が「わくわく、どきどき(どんどん)」するといった意味。
ミンジャイグサ
第3話で登場。和彦を山歩きに誘った暢子は、病弱な妹・歌子のために熱冷ましに効くという野草「ミンジャイグサ」を採取。山をずんずんと分け入っていく暢子の行動に対し、和彦は「野生児だ…」と驚きを隠せません。
▷「ミンジャイグサ」は、湿った岩場などに自生する多年草で、いわゆる「ユキノシタ」のこと。咳止めなど薬草として用いられるそうです。
まさかやー / 真剣(しんけん)?
第3話で登場。大雨の中、山小屋に避難した暢子と和彦。そこで和彦から両親が不仲で食事の時はいつもケンカばかりだと聞いた暢子は、「まさかやー」と驚きを見せました。
また、第4話では自作の沖縄そばを和彦に褒められた暢子が、「まさかやー、真剣?」と発言しています。第2週でも、運動会で転倒した際、和彦がイカスミジューシーを食べられないと発言したさいなどに、暢子が「まさかやー」とつぶやいています。
▷「まさかやー」は、「本当?」「マジで?」と言った意味。「まさかひゃー」とも。
▷「真剣」も沖縄の人たちが多用する言葉。「本当に?」「マジ?」といった意味。
ニライカナイまで投げ飛ばしてやるからよ!
第3話で登場。どちらが沖縄角力(ずもう)の横綱かでもめた賢秀と智は、その場で決着を付けることに。賢秀は「ニライカナイまで投げ飛ばしてやるからよ!」と智を挑発。
▷「ニライカナイ」は、沖縄や奄美地方に伝わる異界(他界)概念。遥か遠い東の海の彼方や海底にあるとされる異界、理想郷のこと。賢秀は智のことを「海の彼方のあちらの世界」まで投げ飛ばしてやろうと意気込んでいました。
まーさんやー
第5話で登場。青柳史彦から那覇の西洋料理レストランに招かれた比嘉家。メインのデミグラスソース・ハンバーグステーキを食べた賢秀は、思わず天に向かって「まーさんやー!」と叫んでいます。良子は「大きな声出さないで!恥ずかしいさー」と苦言。
▷「まーさん」は、「おいしい」の意味。「まーさんどー」は「おいしいよー」、「まーさんやー」は「おいしいね」。
はっさ
第10話で登場。「ねえ、手ぇつないで帰ろう。」と提案した暢子に対し、和彦が「嫌だよ恥ずかしい!小学生と手なんかつなげるか!」と拒否。それを聞いた暢子が思わずつぶやいたのが、「はっさ!」という言葉。
▷「はっさ」は、「ああもう」「あら、まあ」といった驚きなどを表現する言葉。
わじわじする!
第4週などで登場。料理大会でブースの理不尽な場所変更を強いられた山原高校の料理部員に対し、暢子が「わじわじしているひまないよ!」と発言。その前日の放送でも、南山原高校の屋良ひとみに挑発された暢子が「ばかみたい。でーじわじわじする」と発言。
▷「わじわじする」は、プンプン、ワナワナと怒っている時に使う言葉。