NHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」の劇中で梅津貴司や八木巌が生み出す詩・短歌・名言を書き出してまとめます。
貴司の紡ぎ出す言葉は常に舞を勇気づけ、人生を後押ししていくことになります。
原点はデラシネのおっちゃんの詩「白い蝶」
貴司がはじめて詩の世界に出会ったのは小学3年生の頃(第12回)。
舞と一緒に訪れた古本屋デラシネで八木のおっちゃん(又吉直樹)の自作詩集「どこからも遠い場所」の中の一遍の詩「白い蝶」を読んだことで、貴司は内なる思いを言葉として表現することの面白さに目覚めています。
貴司が感銘を受けた「白い蝶」の一部を書き出してみます。貴司がこの頃からさまざまな思いを胸に抱えていたことがわかる詩です。
「白い蝶」八木巌
静かな夜に
白い蝶が生まれようとしていた
大地にたよりなく根差した
一本の細い茎が
しかし
蝶になろうとするものの重みを
立派に支えていた
その茎の先では
青い花が
不安な揺れに花弁をひとひら失って
それでもなお
白い蝶の無事だけを祈っていた
〜(中略)〜
けれども
蝶の孤独な闘いに
手を貸してやれるものはいなかった
蝶もそして茎も花も月も
ひとりぼっちなのだった
貴司の苦しみの言葉「干からびた犬」
システムエンジニアとして就職し、初任給で金子光晴の著作「ねむれ巴里」「どくろ杯」を購入した貴司。
向いていない営業仕事に疲れ果てていた貴司は、喫茶ノーサイドで紙ナプキンに「干からびた犬」という言葉を綴っていました。
それを知った久留美は「こっわ、貴司くん大丈夫なの?」と心配しますが、貴司は「大丈夫や、ただの詩のひとつや。干からびた犬というのは僕のことや。」と語っています(第23回)。
八木のおっちゃんの「短歌のススメ」
デラシネが閉店すると知り、「今この店までなくなってしもうたら僕、どないしたらええんか」と八木に泣きついた会社員時代の貴司。
それを聞いた八木は、胸につっかえている言葉を短歌にしてみい、と短歌を作ることを貴司に勧めています。八木は五七五七七の短歌のリズムに乗せて、以下のように短歌を詠むコツをわかりやすく貴司に伝えています(第30回)。
嬉しさは
忘れんために
悲しさは
忘れるために
短歌にしてみ
逃亡先の五島で詠んだ短歌「星たちの光あつめて…」
仕事のストレスが限界に達し、五島へと逃亡してしまった貴司。
心配して五島にやって来た舞と久留美の前で、旅をしながら詩を詠み続けると宣言した貴司は、五島の美しい星空を見て自然に浮かんだという以下の短歌を二人に披露しています(第33回)。
星たちの
光あつめて
見えてきた
この道をいく
明日の僕は
まずは詩人になるためにおかんとおとんを説得するという貴司。その言葉を聞いた久留美は生き別れになっていた福岡の母に会いに行くことを決断し、舞もめぐみに反対されていたパイロットの夢を追いかける決意を固めています。
貴司、久留美、舞、それぞれの人生が動き始めるキッカケとなった、力強い貴司の短歌です。
舞の心の支えに「トビウオが飛ぶとき…」
航空学校の帯広課程に進んだ舞のもとに、福井にいるという貴司から届いた絵葉書。福井の若狭漁協で働きながら詩を書き続けていた貴司は、美しい日本海を見ながら浮かんだ詩を舞に送っています(第41回)。
トビウオが
飛ぶとき
他の魚は知る
水の外にも
世界があると
舞はこの詩をとても気に入ったようで、以降、座右の銘のようにこの言葉を大切にしていきます。柏木との告白シーンでも「友達が送ってくれた短歌」として柏木に紹介してしまうほどに、舞はこのトビウオの詩を溺愛しているようです。
貴司、縁側で閃く「見上げる白い星の裏は黒…」
五島の才津家の縁側で、舞、貴司、朝陽少年の3人が宇宙談義に花を咲かせていた夜(第60回)。
朝陽が星座の観察を、舞がパイロットの離着陸シミュレーションを、貴司が短歌づくりをそれぞれ気の向くままに始めてしまうと、思わず朝陽が冷静になり「変人にはさまれてる…」とつぶやいています。
この時、貴司は朝陽が語った宇宙談義から着想を得て、「見上げる白い星の裏は黒…これやわ!」と新しい詩の着想を得ています。
悩む舞を後押し「トビウオは水ん中おってもトビウオや」
浩太が急死し、パイロットになる夢を諦めてでもIWAKURAの再生を手伝うべきか悩む舞。
それを聞いた貴司は、「ほな、そないしたらええやん。誰かのために頑張ってる時の舞ちゃん、幸せそうやし」と助言。以前自身が絵葉書で送った詩を引き合いに「トビウオは水ん中おってもトビウオや」という言葉を送っています(第69回)。
久留美はこの言葉の真意がわからなかったようですが、舞にはしっかりと貴司のメッセージが伝わったようです。
もはや告白?「君が行く 新たな道を 照らすよう…」
IWAKURA再建のために本格的に働き始めたものの、古参の社員たちからは冷笑され、営業の成果もあげられずに落ち込んでいた舞。そんな舞のもとに、五島にいる貴司から久しぶりに絵葉書が届いています(第73回)。
美しい星空が写された絵葉書には、以下のような貴司の短歌が添えられていました。
君が行く
新たな道を
照らすよう
千億の星に
頼んでおいた
貴司は苦労続きの舞が下を向いてしまっていることを予期していたのか、思わず空を見上げたくなるような内容の短歌を送っています。
もはや貴司の告白とも思えるような短歌をもらった舞は、貴司の優しさにすっかり癒やされ、活力を取り戻しています。
初めて新聞に掲載された詩「陽だまりの方へ 寝返り打つように…」
「今月の新鋭歌人」として初めて新聞に詩が掲載された貴司。母の雪乃も大喜びです。
この作品を目にした八木のおっちゃんがうめづを訪ね、「心にすっと飛び込む詩、作れるようになったやんか」と称賛。八木は閉店していたデラシネの鍵を貴司に託しています(第76回)。
新聞に掲載された貴司の詩は以下の通り。
陽だまりの方へ寝返り打つように昆布は水にひらいていった
幾たびか咳に目覚めて対岸の灯を恋うように朝を待ってる
暗闇のどこかで鳴いている三毛猫よ 白い部分手がかりに捜す
落ち込んで立ち直るまでの僕の歌パラパラマンガのように眺める
麻酔から覚める心地で見分けゆく雨に揺れる葉、風に揺れる
〈評〉着眼点が面白い歌人である。まだ若く今後の成長が期待される。
長山短歌賞にチャレンジ「舞い落ちる 桜の花片 乗せたとき…」
短歌界の芥川賞といわれる長山短歌賞に応募するため、50首を選んでいる貴司。デラシネにやって来た舞は貴司の短歌選びを手伝い始めると、そのうちの一首を手に取ります。
舞い落ちる
桜の花片(はなびら)
乗せたとき
オダマキの葉の
揺れが止まった
舞は「咲いてる桜やなくて、ちっちゃい葉見てんのが貴司くんって感じやな。人と違うトコ見てる、そこがええねん」と称賛。「舞」という自分の名前が入ったこの短歌を気に入ったようです。