NHK連続テレビ小説「らんまん」7月14日(金)放送の第75回より。
この日の放送では、「日本植物志図譜」を刊行するためのお金(100円)の工面に苦労していた万太郎と寿恵子に対し、長屋の住人・倉木隼人が100円を差し出す場面が描かれています。
この100円というお金がどこから出てきたのか、ピンと来ない方や忘れている方も多いかと思いますので、備忘録も兼ねてまとめておきます。
「日本植物志図譜」刊行には100円が必要
新種の名付け親になるためには、ちゃんとした植物学者であると世に認められる必要がある…。
そんな避けようがない事実に気がついた万太郎(神木隆之介)は、自身の植物画をふんだんに載せた「日本植物志図譜」なる植物図鑑を刊行することを決意します。
すっかり万太郎の「戦友」になっている妻の寿恵子(浜辺美波)も、結婚時に峰屋から持たされた大切な1,000円を注ぎ込んで自宅に石版印刷機を導入する手はずを整えるなど、「日本植物志図譜」実現のために後方支援を行っていきます。
「日本植物志図譜」の刊行のためには、ほかにも超えなければならない問題がありました。万太郎にはまだ信用がないため、出版にあたり版元に100円を前払いしなければならないのです。
寿恵子は自身の白いドレスを質に入れるなどお金の工面に奔走しますが、思うようにお金は集まりません。そんな姿を見かねた長屋の住人・おえい(成海璃子)は、夫の倉木隼人(大東駿介)にそのことを話したようです。
倉木は万太郎のもとを訪ねると、「これを…使ってくれ」と言って万太郎に100円を差し出しています。
万太郎「これ…あの時の…。」
倉木「施しじゃねえぞ。お前が戦うためにその金を渡すんだ。おれは…万太郎に救われた。」
おえい「ありがとう。」(倉木夫婦が感謝をこめて万太郎に頭を下げる)
万太郎「…ありがとうございます。倉木さん、おえいさん。ありがたく使わせていただきます」
「あの時の」倉木の100円
「戦うために渡すんだ」と言って倉木隼人が差し出した100円。十徳長屋の一部屋の家賃が50銭ですから、いかに大金であるかがわかります。
万太郎が「これ…あの時の…。」と発言している通り、この「倉木の100円」は過去回に登場しています。
「倉木の100円」のエピソードが描かれたのは、第6週のこと。
まだ上京したばかりだった万太郎は、神社でお参りをしている際に大切な植物標本が入った荷物を倉木に盗まれ、それを探し回るうちに十徳長屋にたどり着いています。
当時の倉木は、上野戦争で負った心身の傷が癒えずにやさぐれた生活を送っていました。倉木は、大切な標本を返してほしいという万太郎に対し買い取りを要求。この理不尽な倉木の要求に対し、万太郎は臆せずに100円の支払いを約束しています。
約束通り倉木に100円を支払い標本を取り戻した万太郎は、倉木に対し以下のように語っています。
万太郎「これで終いです。わしの標本は、これでもう倉木さんとは一切関わりはない。」
倉木「どうして?どうしてそこまで?たかが草だろうが!貴重な薬なのか?誰か偉いやつが欲しがっているのか?施しか?なあ…そうなんだろう。金を恵んで気分がいいか。雑草だろうが!なぜ雑草にカネを払う?誰の目にも入らねえ、入ったとて…疎まれ踏みにじられ…。雑草なんか生えててもしょうがねえだろうが!」
万太郎「雑草という草はないき。必ず名がある。天から与えられた唯一無二の名があるはずじゃ。その名をまだ見つかっていない草花ならわしが名付ける!草花に値打ちがないらあ、人が決めつけな!わしは楽しみながじゃ。わしがで出会うたもんが何者かを知るがが…。わしは信じちゅうき。どの草花にも必ずそこで生きる理由がある、この世に咲く意味がある、必ず!」
倉木「…出ていけ…出ていけ!」
万太郎が語った「どの草花にも必ずそこで生きる理由がある、この世に咲く意味がある」という言葉は、暗闇の中にいた倉木の心を動かしたのでしょう。倉木は万太郎との出会いを境に少しずつ自分を取り戻しており、万太郎に対し深い恩義を感じているようです。
上京当時の万太郎は100円という大金を気前よく出してしまうなど、まだまだボンボン気質が抜けていませんでした。その後、苦労を重ねて成長をした万太郎は、倉木から自分の元に戻ってきたお金の有難みを痛感したことでしょう。