NHK連続テレビ小説「らんまん」の主人公・槙野万太郎は、「若」「万太郎」「カエルさま」「万さん」「万ちゃん」「ミスターマキノ」など多様な呼び名(あだ名)で呼ばれています。
この呼び名の多様さが、万太郎と各登場人物の関係性を読み解く上でちょっとしたスパイスとして機能しているように感じます。各登場人物が万太郎をどう呼んでいるのか、ざっとまとめてみます。
「若」「万ちゃん」「万さん」「槙野さん」「ミスターマキノ」
「らんまん」の登場人物たちは、主人公の槙野万太郎(神木隆之介)のことをさまざまな呼び名で呼んでいます。
その呼び方により万太郎との主従・上下関係や親密さなどが表現されているほか、呼び名の変化により万太郎との関係性の変化が見て取れます。
以下に、各登場人物たちが万太郎のことをどう呼んでいるのかをまとめてみます。竹雄や寿恵子のように、途中で万太郎の呼び方が変わっている人物もチラホラ。脚本を担当している長田育恵氏は、意図的に万太郎の呼ばれ方を使い分けているようですね。
★各登場人物は万太郎をどう呼んでいる?
・竹雄=「若」→「万太郎」に変化
・寿恵子=「カエルさま」→「槙野さん」→「万太郎さん」に変化
・タキ、ヒサ、綾=「万太郎」
・峰屋の番頭、職人ら=「若旦那」
・波多野、藤丸=「槙野さん」→「万さん」に変化
・りん、ゆう、えい(長屋の女性陣)、大畑義平=「万さん」
・丈之助、大畑佳代(印刷所娘)=「万ちゃん」
・田邊教授=「槙野」「槙野くん」「ミスターマキノ」を併用
・徳永助教授、大久保助手、池田蘭光ら=「槙野」
★参考
・長屋の差配人りんは竹雄を「竹ちゃん」と呼んで可愛がっている
・竹雄は綾のことをずっと「綾様」と呼んでいる ※第59回では「あなた」「槙野綾さん」と呼ぶ
・万太郎は寿恵子のことをずっと「寿恵子さん」と呼んでいる
・タキや綾は結婚が決まった寿恵子のことを「お寿恵」「寿恵ちゃん」と呼ぶ
・田邊教授は陰で「ユーシー」と呼ばれ、少し馬鹿にされている
呼び方に変化が見えた竹雄と寿恵子
万太郎に対する呼び方で一番劇的な変化を見せたのが、長年相棒として万太郎と行動を共にしてきた竹雄でしょう。
峰屋の番頭の息子として育った竹雄は、幼少期から当主の万太郎とその姉・綾に対して明確な主従関係を意識しており、それぞれ「若」「綾様」と呼んできました。上京後もタキの言いつけを守り、万太郎を守る随行者として主従関係を守っていた竹雄ですが、第54回では「わしはもう若を当主と思いませんから」と発言して主従関係の解消を宣言。本人の前で「万太郎!」「万太郎!」とぎこちなく呼び捨ての練習をした上で、以降は「万太郎」呼びをしています。
この宣言以降の竹雄は万太郎と(ほぼ)対等の関係になり、自らの意思で万太郎を支えています。竹雄の「万太郎」呼びは竹雄自身の成長、精神的自立の現れと見て良いでしょう。今後、「綾様」呼びにも変化が見えると予想します。
一方で、初対面で名前も知らない万太郎を「カエルさま」「カエルの国のお殿様」と呼んでいた寿恵子。
やがて再会した万太郎と恋に落ちると、寿恵子は遠慮気味に「槙野さん」と呼ぶようになり、ついに恋が成就して結婚が決まると「万太郎さん」と呼び始めています(第59回〜)。何となく寿恵子の育ちの良さが見えますね。
人たらしの万太郎 「万さん」「万ちゃん」と慕われる
万太郎は人たらしの才能があるのか、当初は怪しまれてもすぐに人と打ち解け、いつのまにか周囲から「万さん」「万ちゃん」と呼ばれて愛されています。
当初は警戒感があった長屋の女性たちは、万太郎が善人だとわかるといち早く「万さん」呼びに。長屋の文学青年・丈之助も打ち解けた後は「万ちゃん」呼びですっかり仲良しになり、当初は「槙野さん」と呼んで距離を置いていた植物学教室の波多野、藤丸コンビも、打ち解けたあとは「万さん」と呼んで万太郎を慕っています。
長屋の差配人・りんが竹雄のことを「竹ちゃん」と呼んで可愛がっていることも含め、登場人物たちが万太郎や竹雄を親しげに呼ぶことで、間接的に視聴者がその登場人物たちに親しみを覚えるという効果があるように感じます。コワモテの大畑印刷所の主人・大畑義平や職人たちが万太郎の人間性を認めて「万さん」呼びし始めた時などは、見ているこちらも嬉しくなってしまいますよね。
気分で呼び名が変わる田邊教授
名教館の池田蘭光先生や植物学教室の教授陣など、公の場では「槙野」と呼び捨てで呼ばれることが多い万太郎ですが、田邊教授だけは少し異質な感じがあります。
田邊教授は万太郎のことを「槙野」と呼んだり「槙野くん」と呼んだり、時には「ミスターマキノ」と呼んでみたりと、その気分や状況(威圧を与えたい時など?)によって呼び名を変えているようです。
これもちょっとした仕掛けというか伏線というか、田邊教授の人格に裏表があり、いつ万太郎に対する態度が豹変してもおかしくないということを示唆しているのかも知れません。
※田邊教授は教室の学生たちから陰で「ユーシー(=口癖 You see?から)」と呼ばれており、少し小馬鹿にされていますね。
以上のように、「らんまん」では呼び名に注目して見ていると各人物の関係性が見えてきて面白いかと思います。
今後の一番の楽しみは、竹雄が「綾様」のことをどう呼ぶようになるのか、というところでしょうか。
6月22日(木)の第59回では、竹雄が「綾様のことももう主とは思いません。あなたは草花が好きすぎる万太郎の姉様で、ただの酒が好きすぎる槙野綾さんじゃ。わしは子供の頃からずっと一緒に育った槙野のきょうだいが好きながじゃ。わしはただの槙野きょうだいが好きすぎる井上竹雄じゃ」と発言。竹雄と綾の関係に大きな進展がありそうです。